動物園の死闘 5
「つきまとうのはもうやめてっ」
彼女がフリングスに強く抗議した。彼は無表情で彼女をじとっと見ている。
彼女の厳しい口調に僕はなぜかほっとしていた。
「指輪を渡したらおまえの言うとおりにしよう」
強い雨のなかでもよく通る声で、フリングスは彼女を指さした。
指輪。さっきもプライが口にした。僕は自分の左手を見た。濡れた指に金属の輪が鈍く光る。
こんなおもちゃのようなペアリングがどうしたっていうんだ。
「これはクコとの婚約指輪なんだから」雨のしたたる髪を乱し彼女は首を振った。「絶対に嫌っ」
フリングスが彼女ににじり寄る。よこせ、と彼女の左手首をつかんで強く引っぱった。なんて乱暴な。
彼女は体を引いて抵抗する。
「やめろ!」僕は怒鳴り、もの陰から飛び出した。
フリングスの腕を取り、彼女の手からほどかせる。「クコ!」と彼女が驚きの声をあげた。
一方のフリングスはまったく動揺を見せない。まるで僕がここに来ることを知っていたかのように。
「僕の友達に暴力を振るうな」僕は彼女の前に立ちはだかった。「ケンカは好きじゃない。おとなしくどこかに行ってくれ」
僕なりの強がりを見せて、高い位置の顔を見すえた。
フリングスは感情のない目で見下ろす。なにかに似ていると気づいた。
ガラス越し、鉄格子の向こうに見た猛獣たちの目。
なんの慈悲もなく冷酷に獲物を狩る捕食者のそれ。
雨に濡れているせいだけではない寒気がした。
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