老婦人・エマとの出会い 2
彼女は笑顔のまま「ん?」と小首をかしげる。
「いや、部活中に美術室じゃなく一階にいたからどうしたのかなって」
「フリングス? えー、なんだっけ。確か――備品を運んでるときに会って手伝ってもらったんだと思う」
彼女は人差し指を顎に当てて空を見た。とぼけているようにも見えるし、本当に記憶をたどっているようにも見える。僕は、そうなんだ、と釈然としない調子で言った。
「あ、もしかして妬いてる?」
「そんなんじゃないっ」目尻を下げる彼女に僕はあわてて否定した。
「クコがやきもちを焼いてくれるなんてなんだかうれしい」
「だからそういうのじゃなくて」
「あー、このままデートしたい気分」後ろに組んだ手を伸ばして彼女はビルを見上げた。
「僕、こんな汚れた格好だけど」
「ううん、今のは希望を言っただけ。このあとお母さんからみっちり料理を仕込まれるの。だからもう帰らなきゃ」
僕は、そうなんだ、とさっきも言ったことを繰り返した。
「デートできなくて残念?」
べつに、とそっぽを向く。
じゃ、明日学校でね、との言葉に振り返ると、彼女が歩きながら手を振り消えるところだった。
僕は連れを失ったままとぼとぼと歩道を歩み続けた。
べつにデートなんてしたかったわけじゃないんだ。汚れたユニフォームだったし。
やきもちを焼いたって指摘も間違ってる。ちょっと気になったから聞いてみただけだ。深い理由はない。彼女は単なる友達で、幼なじみで、いとこで、クラスメイトだ。……まあ、婚約者でもあるけど。
だからといってなんら特別な感情は持っていない。友達として好きなだけだ。あくまで友達として。
ふっと遠くを見ると、青々としたスカイハイタワーがお見とおしづらで僕を見ていた。
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