老婦人・エマとの出会い 3

 もやもやとした気持ちで街をぶらついていると駅の近くまで来ていた。飲食店街でラーメン屋やハンバーガー店などが並んでいる。試合でお腹も空いてるし気晴らしになにか食べていこうか。それとも、マリーじゃないけど、早めに帰って父さんに船について習おうか。


 足を止めて思案していると路地裏に目がとまった。ビルの谷間で誰かがうずくまっている。


「どうしたんですか。大丈夫ですか」


 小柄だったので子供かと思ったが、駆け寄ってみれば真っ白な髪のお年寄りだった。

 おばあさんは苦しそうに顔を上げた。


「薬を家に忘れてしまって」

「病院に行きましょう。僕、おぶいます」

「いいの。ちょっと休めばよくなるから。家もこの近くだし」


 おばあさんの言うとおり、少し横についていると様子が落ち着いてきた。


「ありがとう、もう大丈夫よ」


 立ち上がるおばあさんに、家まで送ります、どこですか、と申し出た。

 おばあさんは、大丈夫だから、と繰り返したけれど、心配で放っておけなかった。


 おばあさんの家はほど近い場所にあるマンションの一室だった。

 ひとり暮らしとのことで1DKのさほど広くない部屋だ。


「どうもありがとう。よかったらお茶でも飲んでいって」僕は遠慮したけれど、おばあさんは顔のしわを増やして尋ねた。「コーヒーと紅茶はどちらが好き?」


 じゃあ、紅茶を、と答える僕に椅子を勧めてくれた。洗面所を借りて手を洗いテーブルに着く。おばあさんがやかんに火をかけている間に室内を見渡した。

 うちの船ほどではないけど、あまり飾り気のない部屋だった。生活感のない家だな、となんとなく思った。

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