ナツい登校 5

 放課後、僕たちはそれぞれソフィア先生に職員室へ呼ばれた。

 先に行った彼女によると、学校を休んでいた理由、なにか困っていることはないか、授業についてこられそうか、と聞かれたそうだ。

 事情は話せないが家の都合で休んでいた、困っていることはない、家で自習をしていたので授業は問題ない、と答えてとりあえず承知してもらったらしい。

 僕がソフィア先生の机に行ったときも同じ質問を受けた。彼女と同様の回答をして、不承不承といった様子で解放された。先生がすごく気にかけてくれているのが伝わってきて、それはありがたかった。


 職員室を出ると、ドアの近くで彼女が立ち話をしていた。相手はクラスメイトの背の高い男子、フリングスだ。

 僕の顔を見ると、じゃあ、もう行くよ、と言って彼は去っていった。


「クコ、どうだった?」


 笑顔で尋ねる彼女に、先生から同じことを聞かれ同じように答えたと話した。


「彼となに話してたの?」僕は昇降口に向かいながら彼女に聞いてみた。

「フリングス? どうして学校休んでたのとか、休んでる間、なにしてたのとか」

「ふうん」ぞっとしない調子で僕はあいづちを打った。


 彼はどうして僕には聞かなかったんだろう。僕が出てきた途端いなくなって。前にもこんなことがあったような。


「駅前のカフェに行こうよ。そこのアイス、おいしいんだ」

「誰かに見られないかな」ご機嫌で上履きを履き替える彼女に、僕は不安げに言った。

「奥の席に座れば平気よ。友達と何回か行ったけど、うちの生徒見たことないし」彼女はスニーカーのつま先をとんとんと鳴らした。「どうせ私たちが婚約してることは結構知られてるんだし見られたっていいじゃない」

「みんなに冷やかされるのがやなんだよ。君だってそうだろ?」

「まあ、ちょっとはね。でも、それを気にして、したいことができないほうがもっと嫌」並んで昇降口を出ながら彼女は首を横に振った。「せっかくコクーンの夢に戻ってこられたんだし、クコと思いっきりデートしたい」


 こんな晴れやかな顔をされると、実は別々に校舎を出たかった、なんて言えなくなる。

 まだ下校中や部活中の生徒が校庭に多いし、駅までの道にも顔見知りはいるだろう。明日も話のネタにされるんだろうな。ため息をついて彼女の隣を歩く。その嬉々としたステップを見せられたら、気持ちにこたえないわけにはいかないじゃないか。なんだか彼女の手のうちでもてあそばれる操り人形の気分だ。


 ふと遠くを見やると、校庭からも眺められるスカイハイタワーが、日を浴びて元気に青く輝いていた。夏本番の日差しは容赦なく僕から水分を奪う。僕はもう一度、息を吐き出した。

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