ナツい登校 4

「だから違うってば」


 僕は首と手を振った。まだ日は高くないのに顔が熱い。

 僕たちがいくら否定しても、みんなの間で新婚旅行説はひとり歩きする。いつ結婚したのだの、今はどっちの家に住んでるのだの。果ては、もう赤ちゃんできちゃったの、だなんて問題発言も飛び出す始末だ。地獄か。


 この手の話題にのぼることが苦手な僕が半ば無言になっているのはもちろん、僕ほど照れはひどくない彼女も空笑いで対処に困っていた。こういう話は男子より女子のほうがえぐいな。遠慮がない。


 失敗だった。彼女とただ楽しくしゃべりながら登校するだけだったのに、こんな好奇の目にさらされるなんて。

 自分たちの置かれている状況への認識が甘かった。楽しみばかりに気が向いて深く考えていなかった。

 気持ち的には難しいけど、一週間ぐらいずらして復帰すれば憶測も少しは和らいだかもしれない。初日に並んで登校なんてありえなかった。


 へこんでいてもしょうがない。教室でクラスのみんなと再会できたときはすごくうれしかったし、家でだいぶ先まで自習していたおかげで授業にも困らなかった。ソフィア先生もほんの少しだけ私語に甘かった、ような気がした、いや、しないでもなかった。わりと怒られた。


 幸い、朝の一件は「詳しくは言えないが家同士の事情で休んでいた」「今日から登校することになったからふたりで一緒に来た」の一点張りで押し通せた。

 もともと、親同士が婚約を決めていることはクラスじゅうに知られていたから、あのふたりの家はなにかわけありなんだろう、というところに落ち着き、新婚旅行説は立ち消えになった。それだけでも奥手の僕としてはありがたかった。

 結局、一番参ったのはほかでもない、教室の暑さだった。エアコンに慣れた体に午後の室温はまるでサウナで、僕とマリーは終始ぐでっとしていた。

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