心弾む夜 12
彼女の一家を見送りに、僕たちも一家全員、ハッチへ連れだった。八人もいるとさすがに通路は狭苦しい。夜の時間帯は照度も控えめでなおさら。歩きながら皆、魔法の解ける最後の最後まで味わおうと語らった。
重々しくハッチが開かれる。
「最高の夜を過ごせた。ありがとう」「クコが頑張ってくれたおかげよ」
叔父さんと叔母さんは感謝を述べ、おやすみなさい、と向こうの船に渡って行った。
叔父さんがダクトを通るのを初めて見たけど、遊泳、下手だな。
大人が渡り終え、次は年の順でマリーの番になった。
彼女は別れを惜しむようにじっと僕を見つめる。気まずくて僕は目をそらした。
「さよならのキスしないのー?」
「ミリーったら!」
ミリーの冷やかしに僕と彼女はあわてる。彼女がげんこつを振り上げるとミリーは母さんの後ろに隠れた。この子の自由奔放ぶりはなんとかならないのか。
「キース、キース」
ミリーがはやしたてるとグミまで調子に乗って同調する。
「あんたたち!」「グミ! ミリー!」
僕と彼女は頬を染め、弟たちを叱りつけた。こいつらは……。特別な日ですっかりはしゃいでいる。手に負えない。
「はいはい、そういうことはもうちょっと大人になってからね」
僕とマリーの肩に手を置き次男と姪をたしなめる母さんに、僕はより赤面する。マリーは複雑な表情でもじもじしていた。
マリーがダクトの前に立つ。
「じゃ、また明日学校でね」
小さく手を振る彼女に、はっとする。
また明日学校で。
久しぶりに聞く、別れぎわのなにげない言葉。これを聞くまでに三カ月の時間がかかった。もっと遠い昔のことのように思えた。
「また明日。学校で」噛みしめるように、僕も言った。
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