心弾む夜 8

 母さんたちの自慢の料理が振る舞われた。カナッペ、ブルスケッタ、カルパッチョ、ピンチョス、トルティーヤと順番にリビングに運ばれてくる。夕食後ということで軽いものばかりだ。

 そういえば夕食の途中だったけど食べかけはどうなるんだろう。母さんに尋ねると、とっておいて明日の朝食に回すと言っていた。


「おいしいっ。私、これすごく好き」カルパッチョをぱくつくマリーが感嘆をあげる。


「お姉ちゃんもこれぐらい作れたらいいのにね。クコ、結婚しても料理は期待しないほうがいいよ」

「ミリー、あんたは一言よけいなの」

「でもよくこんなにいろんな種類を作れるよね」


 グミが感心しながらトルティーヤを口に入れる。確かに短時間でバラエティー豊かに用意するのは大したものだ。大人四人の本気を見た気がした。僕もちょっと料理を覚えようかな。マリーのことが不安だし。


「ん? なに?」ピンチョスをつまむ彼女を見ていたら不思議そうな顔をされた。


「あ、いや、別に」僕はごまかしてソファーを立った。「飲みもののおかわりを取ってくる」



 自分と彼女のグラスを持ってダイニングに行くと、大人たちがテーブルを囲んでいた。軽食をつまみながら語らっている。大人が全員そろって食事をする光景はものめずらしい。楽しそうでなによりと緩みかけた頬が止まった。みんな顔が少し赤い。


「……お酒飲んでるの?」とまどう僕に、母さんがほんのり上気した顔を上げた。


「ほんの少しだけよ。今夜は特別。次はあなたたちの結婚式までお預けよ」

「大丈夫。あなたのお父さんと叔父さんは私たちがちゃんと見張ってるから」


 叔母さんが冗談めかして父さんたちをにらんだ。ふたりは「参ったな」「こりゃ手厳しい」と頭に手を当てた。このところ、毎日、目にしていたあのやさぐれた赤ら顔ではなく、温かみのある破顔。どうやら和やかなムードのようでほっとした。泥酔のおそれはなさそうだ。

 大人の歓談を聞きながら、キッチンのドリンクサーバーでサイダーを入れ、リビングに戻った。

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