心弾む夜 6

「今、ミリーといい勝負になってんだから」

「お姉ちゃんたち強すぎるからだめっ」


 ふたりの反対は兄と姉の権限でむげに却下。僕たちはそれぞれ操作端末を手にし床に座った。

 新たな参戦者が現れました、とのアナウンスとともに、壁の大型モニターにキャラクターが二体登場する。四人でプレイするのはかなり久しぶりだ。腕が鳴る。


「ミリー、ここはいったん協力しよう」と弟たちはうなずきあった。マリーは不敵な笑みで端末を構えている。彼女の悪いくせが始まるぞ、と先が思いやられた。僕は様子を見て多少は手加減するつもりだったけど、彼女の辞書にそういった文字は乗っていない。


「グミ、お姉ちゃんを挟み撃ちよっ」「食らえ、マリーっ」「甘いっ」


 グミとミリーの悲鳴があがる。彼らは左右からマリーを狙うも、彼女のすばやい反応で返り討ちにされた。ふたりは口をそろえて抗議。なにもしていない僕までなぜかやりだまに挙がっていた。


「いつも言ってるでしょ。この世は弱肉強食だって」

「お姉ちゃんってばすっかり元気になっちゃって。さっきはあんなに泣いてたくせに」

「ミリー!」

「クコ〜、会いたかったよ〜、って赤ちゃんみたいに泣いてさー」


 妹は口真似で姉をおちょくる。わりと似てて吹きそうになった。

「あんたねえっ」とマリーは頬を赤らめる。

 ミリーは、捕まえようとする姉の手からさっと逃れた。姉妹は立ち上がって向かいあう。


「抱きあってチューまでして」

「そんなことしてない!」


 僕とマリーは同時に反論した。今度は僕まで顔が赤くなる。

 ミリーは壁ぎわまで逃げ、自分の腕を抱いた。口先を突き出して「クコ、愛してるわ」なんて言っている。この子はまったく。


「あんた、クコの家だからって容赦しないからね」

「お母さーん、お姉ちゃんが暴力振るうー」


 ケンカしないで仲よく遊びなさい、との叔母さんの声がダイニングから聞こえた。叔母さんはのんびりしたもので、リビングへやってくる様子はない。

 ミリーは悪乗りして「あっ、そこはだめよ、クコのエッチ〜」などとのたまっている。マリー、これは怒っていい。


「ミリー! もー頭きた。げんこの一発や二発じゃ済ませないからねっ」

「まあまあ、今夜はお祝いなんだから抑えて」


 結局、放置するわけにもいかず、僕はマリーを見上げてなだめ役にまわる。


「おめでたい日でミリーも浮かれてるんだよ。姉として大目にみてやりなって。ほら、ミリーも謝る」

「ごめんなさーい」


 あさっての方向を見てミリーは口先だけで謝った。反省の色ゼロだ。

 マリーは不満げに口を曲げつつ床に座りなおした。ミリーもとたとたと戻ってきてグミの隣に腰を下ろす。世話の焼ける姉妹だ。

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