心弾む夜 4

「なんだか夢を見ているみたい」彼女は高い場所を見上げて言った。「クコの家で、クコのそばにいるなんて」

「僕も同じだよ。君がうちに来てるなんて、まだ少し信じられない」


 彼女の横顔にそう言った。彼女はうっすらと笑みを浮かべる。カップを傾けて飲み干し、白い歯を見せた。


「伯母さんの淹れてくれるホットチョコレートって最高」


 初めてこちらに振り向く。なんかちょっとうれしい、かも。

 僕は照れ隠しのように「どっちの家でも同じだろう?」と言った。


「ううん、うちのお母さんのもおいしいけど、伯母さんのは格別だよ」

「そうかなあ。違いなんて感じたことないけど」

「クコはそんなに好きじゃないからわからないのよ」

「別に嫌いってわけでもないよ」

「ハグ、しちゃったね」

「えっ!?」


 脈絡なく飛び出したセリフに、僕の心臓は跳ねあがった。ハ、ハグって……。

 はにかむ彼女に対して僕は急速にかちこちになる。


「コクーンの夢じゃない本物のクコと、とうとうハグしちゃった」

「え……、あ、いや……」


 ふふふっ、と彼女はうれしげに声をたてる。さっきのことを思い出して僕は言葉に詰まった。

 彼女との密着。それも、今回は僕のほうも彼女を抱き締めてしまった。

 あのときは再会直後でそう感じなかったけど、冷静に考えるとかなり大胆な行動だった。顔が熱くなってくる。


「でも残念。初めての本物ハグなのに、恋人同士って感じがしなかったのが」

「こ、恋び……」僕は声が裏返りかけた。


「まるでお父さんやお兄ちゃんって感じ」


 目を細める彼女に、ああ、マリーもなんだ、と腑に落ちる。


「小さい子になって、年上の男の人になだめられてる気分だった。同い年なのにおかしなの」


 空になった膝上のカップを見つめて、彼女は照れた素振りを見せた。


「クコにぎゅっとしてもらってすごく心が落ち着いた。安心して甘えられた」

「それはどうも……」


 なんと言っていいかわからず僕もうつむいた。

 彼女と話せるのはうれしいけど、こういう話はどうも苦手だ。嫌ってわけじゃない。でも照れくさくてむずむずする。落ち着かないんだ。


 復帰できる学校のことにでも話題を変えようと顔を上げたときだった。

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