16 クコは立ちあがる

クコは立ちあがる 1

 ナイフとフォークが皿に触れる音が今夜も主役だった。会話はない。言いあいになるなら静かなほうがましというありさまだ。

 夕食どきになると落ち着いた色あいに変わるダイニングの照明も、寒々しく陰気くさいムードを演出するだけ。

 向かいあって座る父さんと母さんの表情はどちらも神経質そうだった。いつものことだ。

 僕と隣のグミは、しかし、今夜は違った。


 僕はテーブルの上に目を落とし、並ぶ料理に目を泳がせて、頭のなかを整理していた。

 事前に書きあげたシナリオをひとつひとつ確認する。手抜かりがあってはいけない。慎重に、丁寧に、うまくことを運ぶんだ。

 けして容易ではないことはわかっている。それでもやり遂げなければ。すべては僕のたち回りにかかっている、それぐらいの思いあがりで挑め。


 少し心配そうにちらちらと僕を見ているグミにうなずいてみせる。

 ――さあ、勝負を始めよう。

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