クコは立ちあがる 2

「父さん、母さん。話がある」


 僕は食事の手を止め、父さんたちの顔をまっすぐに見た。グミも僕にならう。

 真剣な目の僕たちを、ふたりは「なんだ?」「なに?」といぶかしげに見返した。食卓に緊張が生じる。


「コクーンとハッチを開放してほしい」


 僕の要求に父さんたちが反応するまで少し間があった。

 父さんは休めた手を再開しサラダを口に運んだ。


「だめに決まっているだろう」

「そうよ。まだ原因がわかっていないのに」


 ふたりとも視線を自分の皿に戻しとりあおうとしない。当然の返答だろう。これで聞いてもらえるとは思っていない。


「僕たちにはコクーンが必要だ」努めて冷静に僕は説く。「僕にも、グミにも、父さんにも、母さんにも。マリーたち一家にもだ」

「偉そうなことを言うな」

「今はまだ使えないの」


 父さんたちは目を合わさず手を動かした。食事を中断したまま僕は話を続けた。


「コクーンが使えなくなってみんな変わってしまった。怒りっぽくなって争ってばかりだ。前はあんなに穏やかだったのに。コクーンは僕たちの精神衛生を保つ上で不可欠の機器なんだ」

「そんなことはおまえに言われなくてもわかっている」

「だったら制限を解いてよ。たった三カ月でこの状況だ。これ以上続けば気が狂ってしまう」

「問題の原因を特定できない以上、不用意に使うわけにはいかん」

「ずっと調べ続けているのに未だにわからないんでしょ? いったいどれぐらいの時間がかかるの? 突き止められる前に僕たちのほうがもたないよ。そもそもこんな巨大なシステムの不具合を調べること自体、できない相談なんじゃないの?」

「わかったような口をきくな」父さんが顔を上げて語気を強めた。「人が毎日どれだけ心血を注いで資料を読み漁り、仮想ノードをひとつひとつ検証していると思ってるんだ」

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