忍び寄る不穏はまず子供たちに 3

 ――なんだったんだ、今の彼女は。どうかしている。

 鉛のような吐息をつく。妙に体が重たい。少しの間、その場から動くことができなかった。

 ソファーまでよろよろと歩き、沈み込むように体を落とした。


 どっと疲れが出た。彼女との会話がこんなにも消耗するものだなんて。

 なんだって彼女はあんなもの言いをしたんだ? 僕がなにを言った? 

 天井を見つめながらさっきのやりとりを思い出していると、ダイニングから顔を見せた母さんが話しかけてきた。


「あら、今夜は勉強しないの?」

「今やろうとしてたんだよっ」


 自身の声に驚く。自分でも信じられないほどつっけんどんな返事だった。ソファーに体を預け首だけ回した僕を、困惑した顔で母さんが見ている。

 僕は姿勢を正し母さんに向きなおった。


「ごめん、ちょっといらいらしてて」

「またマリーとケンカしたの?」


 母さんは今の僕の口調を咎めもせず、柔和に尋ねた。彼女とひと悶着あったことを見抜いている。いつでも僕のことはお見通しだ。


「まあ、そんなとこ」

「ケンカするほど仲がいいっていうけどほどほどにするのよ」


 くどくどは言わなかった。軽くたしなめるにとどめて母さんはキッチンに戻って行った。

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