マリーの異変 6

 マリーと関わる機会が減る一方で、僕は足しげくエマさんのマンションに通った。部活や生徒会がなく、友達とも遊ぶ約束のない日は、たいてい彼女と盤を囲んでいた。

 日によってホットとアイスに変わる紅茶をいただきながら、白と黒の駒を動かしあう。彼女の強さは驚異的で、チェックメイトまで指しきる気になれない。


「あなたは優れたプレイヤーね。進退きわまったと判断するのがとても早い」エマさんは駒を初期配置に並べながら言った。「でも、ものごとはチェスの盤面のように白黒はっきりつかないことも多いわ。そういうときは最後まであきらめないでほしいの」


 この人はチェスだけでなく含蓄のある言葉でも僕を導いてくれる。だから思い悩んでいることも吐露することができる。

 最近まで家庭環境が悪化していたこと、以来、眠れなかったり嫌な夢――家族全員が死んだり、親友の品位を傷つけるような夢を見たりする日が続いていること、その親友がますますふさぎ込むようになっていること。


 エマさんは傾聴し、僕の気持ちに寄り添ってくれた。

 今はつらいだろうがきっとよくなるときがくる。優しくそう励ましてくれた。

 彼女の手は、口とは裏腹に、容赦なく駒を動かしチェックをかけた。

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