婚約指輪 4

 白球を僕たちは追いかける。週に一度、グラウンドが使える日だ。

 部員六人の弱小部だけど、みんな懸命に練習へ取り組んでいた。ほかの部や友達に助っ人を頼んでたまに試合にも出る。よくも悪くも全員レギュラーだ。


「球、よく見ろー、球ぁー」


 顧問の先生のノックにも熱が入る。今週末に練習試合が控えていた。

 ピッチャーの僕は球を一塁にさばく。こめかみから汗が流れた。

 先週より練習がハードだ。もっとも、頑張るのは試合の前だけで普段はおざなりの部なんだけれど。まあ、先生も腰痛持ちであまり無理できないからなあ。


 ふと、なにか注意を引くものが視界に入った気がした。反射的にすばやく目で探る。

 マリーだ。一階の廊下を誰かと話しながら歩いている。あの背の高さは――フリングス? 

 なんであのふたりがあんな場所に。マリーは美術室に行ったはずじゃあ。


 ゴロが僕の脇を抜けた。クコ、ぼさっとするな、と先生がバットで指す。僕は、すみません、と声を張った。


 次の球が飛んでくる前にもう一度校舎を見た。

 もう、彼女たちの姿はなかった。

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