天才兄貴と、その友人。

下園 悠莉

第1話





私には、兄と言うべき存在が二人いる。


ただ、厳密に言うのであれば

片方の方は、兄と言うには

少し違う。


強いて

似た表現として近づけて呼ぶのであれば

お兄さん、と言った方が

近いのかもしれない。



と言うのも、私が産まれて

物心ついた後

暫く経ってから


彼は、私の家族に迎え入れられたのだ。






彼は、当初は

所謂、兄の幼馴染であり

親友だった。


何度か。

というよりも、何度も、と呼べるほどの頻度で

自宅で、兄と遊んでいるのを見かけていた。


そのうち、会話も多少する事もあり

時間が余っている時は

共に、ゲームをしたりして遊ぶ事もあった。





ただ、いつも彼はボロボロの服を着ていた。






兄が言うには

まぁ、どの家庭も

重要な「仕事」と言うものは

任されていたり

大人になれば、必然的に

「技術」も身についているものだが


彼の家庭はそこそこ貴重な

社会的で言う技術を持つ家庭であったそうだ。


だが、その家庭において

彼は”落ちこぼれ”のレッテルを貼られていた。


否、厳密に言えば

父や母、兄、誰から見ても

彼の才能を、家庭が縛っていた、と言った方が正しい。

そういう環境の中に、彼は居た。




暴力、威圧。

例えるならば、眉間に銃を突き付けられたまま

まだやった事もない技術。

練習の機会さえも与えられない環境に自分が縛り付けていると言うのに

ある技をやれと。

強要されていたのであった。




彼の衣服は、いつも似た様な絵柄だった。

一昨日見たもの。

昨日見たもの。

それらが大半だった。




そんな、ある日。

父と母が、彼を引き取った。

彼は、そんな環境にいるのにも関わらず

頑張っていたから。

考えてみれば、公になるのは

時間の問題だったのだろう。


兄は、とても真剣な顔をしていた。





その日から、兄は多くの事で功績を残していった。

ある時は、文学で。

ある時は、スポーツで。

ある時は、作品で。

テレビに大きく載る様な事は無いけど

魅力的な男性に育っていった。


一方、彼の方は平凡な日常に育っていった。

学力も秀でておらず

と言うよりも、若干低い方でもあった。

友達も然程居る訳ではない。

平凡。

特別性のない。

いや、目立たない、と言った方が正しいか。


不良ではないが、天才でもない。

そんな存在。



それでも、父と母は責める事はしなかったし

というよりも、兄は日が増す程に一層

彼と深い友情を結んでいる様にも見えた。



特別、勲章を得た訳でもないのに。

何故。



私は聞いた。


兄は、こう答えた。 






「 確かに、アイツは他人から見れば

  何もしていない様に見えるかもしれない。

  だが、それは絶対に、違う。


  そうだな、なんて言うべきか・・・。


  アイツには

  すげーデカい夢があるんだ。


  俺はさ、まぁ、色々な夢があって。

  目標があって。

  んで、頑張ってたら、こういう賞状とか貰えた訳なんだけど。


  アイツは、まだ形になってないだけなんだよ。

  形になるのに時間が掛かる。

  だけど、形になれば、多くの人を。

  下手したら、この世界全体を救ってしまうくらい。

  そんなデカい夢を持ってるんだ。


  まぁ、他人から見たら

  何もしていない。

  努力をしていない様に見えるかもしれない。


  だが、傍に依ってみて

  観察してみると、ドンドン成長していってるんだよな。

  確実に。

  まだ小さな一歩だけど。

  その夢に近づいて行ってる。 」


「 ・・・本当はさ。

  やろうとすれば

  俺なんか簡単に越えられるんだよ、アイツは。

  それくらい、スゲー奴なんだ。

  本当に・・・、次元が違う。 」



「 そんな・・・!

  兄さんだって・・・! 」



「 わかってるよ。

  別に自信が無い訳じゃない。 」





「 まぁ、お前はアイツとそんな付き合い長い訳じゃないしな。

  これから、いずれ分かるさ。 」











「 貴方は・・・、兄さんの事を

  どう思っているのですか? 」


「 え?、ああ・・・ 」


「 すごい人だと思ってますよ。


  普段は、お気楽な感じを装ってますけど

  本当は努力家で、優しい所がある事も分かってます。


  時間が流れて、随分とイケメンに育っちゃって

  モテモテになっちゃって

  それでも、あの人は変わらないんですよね。

  ちょっと臆病って言うか、不器用っていうか

  とっても心配してくれて。

  大丈夫だよーって言ってるんですけど。


  本当に、とっても優しい人です。


  ・・・偶に、悲しい事があって

  自分を見失いかける時があるんです。

  でも、そういう時もあの人は助けてくれて

  元気付けてくれるんです。


  とても、尊敬していますよ。 」








私は、まだ兄さんが

なんであそこまで彼を気に掛けるのかは

わからないけど。


でも、それでも

あの笑顔に、人を元気付ける。

眩い何かがある事。


そして

兄さんや、父さん。

母さんが、なんであの子を助けたのか。

それだけは、深く、分かった気がした。







調査終了。


  

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天才兄貴と、その友人。 下園 悠莉 @Yuri_Simozono_2017

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