最終回 パークガイド

「本当に奇跡みたいな場所だったと思っていますし、そこでフレンズ達と一緒に過ごした時間はとても輝いていました。今のジャパリパークがどうなっているかだなんて誰にも分かりませんが、少なくとも、私の心はあの素敵な島に置き去りにされたままですよ、今でも」

 顔色一つ変えずに発せられた冗談めいた言葉が、かえって彼女の物哀しさを浮き彫りにしている。全10回の本特集記事の最終回を飾るのは、ジャパリパークの案内役、パークガイドをしていたハルカワさんだ。そんな彼女が見せてくれたのは、当時の制服の一部であった、羽のついた帽子である。「もうだいぶ色褪せていますが、これを見るといろんなことを思い出すんですよ」


・楽園の案内役

 ジャパリパークはその広大な敷地内に複数のサファリパークエリアを有し、そこに動物およびフレンズ達が暮らしていた。そのうちの一部のエリアは一般客向けにガイドツアーを行う形で開放されており、生息環境や生態を学びながら動物、フレンズと交流できる場所になっていた。ジャパリパークならではの多様な動物と自然環境を活かしたツアーだ。このガイドツアーを支える存在こそがパークガイドであった。

「ツアーに参加してくださった方々に様々なことを解説するのが私たちの仕事でした。動物の生態はもちろんのこと、動物にまつわる雑学や植生、自然環境の話、それから、ジャパリパークの仕組みや不思議な現象について。興味を持ってもらうためにも幅広い知識や面白い話術が必要だったので、勉強してもし足りない日々でした」

 実際、パークガイドは特定の動物やフレンズの管理は行わずに、横断的に各スタッフ業務に携わっており、幅広い人脈や知識を得やすい状況だった。案内役という大役は、様々なヒトとの関わりによって成り立っていたようである。


・憧れが日常に

 幼い頃から動物が大好きだったハルカワさんにとって、ジャパリパークは憧れの場所だった。パークの飼育員になることを目標にして大学で動物生態学を学んでいたが、当時試験開放期間中だったジャパリパークを訪問しガイドツアーに参加したときにパークガイドという仕事に心惹かれたそうだ。

「いろんな動物と友達になれる場所として、昔からパークに憧れていましたし、そこで働きたいとも思っていました。そんな折、パークに行く機会があって、いざツアーに参加したら、私がなりたいのはこれだ、と頭に電流が走ったような感じがして。動物に対する深い知識と想い、そしてガイドを通してフレンズとヒトを繋ぐ姿に感動したんです」

 その後、努力を重ねたハルカワさんはパークガイドとしてジャパリパークに入社し、憧れの場所で日常を送ることを成し遂げたのであった。


・フレンズとガイドさん

 仕事柄、普段からフレンズと関わる機会の多かったパークガイドは、フレンズからしてみれば身近な「ヒト」の一人であったとハルカワさんは語る。

「あの子達にとって私はたまに遊びに来てくれる友達で、ついでに言えば困った時に頼れる存在、みたいなものだったと思います。『ガイドさん』って気さくに声をかけて来て、綺麗な場所に連れて行ってくれたり、悩み相談を持ちかけてきたり。逆に私が困っている時は手を貸してくれて。持ちつ持たれつの助け合いですね。素敵な友達だったし、そうなれてとても良かったと、私は思っています」

 飼育員よりは遠いが、近しい距離にいるからこそ生まれる関係というものもあり、そうしてフレンズ達と築いていった絆が、ハルカワさんを助けてくれたこともあった。フレンズと友達になるという点において、パークガイドは最もふさわしい仕事のうちの一つだったようだ。

「もちろん上には上がいて、動物にとてつもなく詳しくて、たくさんのフレンズと仲が良い先輩とかもいましたよ。愛が深すぎてたまに引かれたりしていましたけど」


・あの楽園は今

 憧れの地で夢を叶えたハルカワさん。しかし、その夢も永遠に続くものではなかった。特定特殊生物セルリアンの襲撃が何度も起こり、最終的にパークは閉鎖されることとなった。昨今、セルリアンは日本列島本土でも目撃されるようになったため存在が周知されているが、当時は今以上に研究が進んでおらずほとんど未知の生物であったため、世論の影響も大きく閉園を後押ししたとされている。

 ハルカワさん達パークガイドは、パーク内の地形やフレンズの特性をよく把握していたということで、セルリアン発生時の避難誘導および戦闘の指揮を執っていたという。「私は主に避難誘導の担当でした。戦闘の指揮を執ってた先輩方は凄かったです」

 その後、セルリアンの討伐に失敗したジャパリパーク運営および新西之島市はパークの完全閉鎖・市の廃止を急遽決定し、職員と住人の完全撤退を行い、今に至る。ハルカワさんも最後の強制退去で島を出たうちの一人であった。

「夢から覚めて、現実に引き戻されたような感覚でした。大切な友達を置いてきてしまったわけですし。ただ、私の心はジャパリパークに残されたままですが、同時に私の心の中にもジャパリパークは残っていますから。彼女達から教わったことを、ここでも受け継いでいきますよ。あの子達へのせめてものお礼と償いです」

 そう言って古びた帽子をかぶった彼女の瞳は、物哀しさで色褪せているということは全くなく、むしろ熱い想いに満ちているように見えた。彼女は都内の動物園で動物解説員として再び働いており、ベテランのガイドさんとして人気だそうだ。



 小笠原の楽園、ジャパリパークの閉鎖からXY年。この一年間、かつてそこで働き、フレンズとともに日常を歩んできた人々を取材し、記憶を辿り、現在を眺めてきた。彼らは当時の記憶を心の支えにし、あるときは心のトゲとして悩み、それでも過去を活かして今この瞬間に向き合っている。

 フレンズは、フレンズ達の想い出は、そしてあの楽園は今、私達ヒトの心の中で強く輝いて残っている。(終)

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