第9回 飼育員

 かつて太平洋沖で営業していた都市一体型の超大型動物園、ジャパリパーク。今回お話を伺ったのは、動物園の裏の主役とも言える飼育員二名、アカツキさんとユカワさんだ。

 彼ら二人は同じ飼育員であったが仕事内容は大きく異なっており、ユカワさんは一般的な動物を担当し、アカツキさんは動物がサンドスターでヒト化した存在、フレンズを担当していた。

「私達は同期で就職したのですが、彼とは日々のやる事も全く違いましたよ。もちろん、どちらも動物への深い知識や責任感が必要という点では同じですけどね」というユカワさんの言葉に、アカツキさんも頷く。


・動物相手の場合

 フレンズというひときわ目を引く存在によって印象が薄れているが、ジャパリパークは閉鎖以前、飼育種類数が世界一の動物園としても有名であり、地域ごとに複数存在する生態展示型のサファリパークエリアで構成されていた。島内各地にある多様な環境を生かし、非常に多くの種類の動物を飼育していたのだ。

 ユカワさんはアミメキリンを中心にサバンナの草食動物を担当しており、動物たちの健康管理や餌やりといった世話を日々行っていた。「仕事内容は普通の動物園とだいたい同じでしたよ。普段のお世話の他に、フィーディングタイムのイベントでお客さんにちょっとした解説をするとか。フレンズ化した子と一緒に解説するととてもウケが良かったのを覚えています」そう言って得意そうにほほえんだ。


・フレンズ相手の場合

 同じ飼育員でも業務内容はかなり異なるフレンズ担当飼育員。意思疎通が可能なぶん健康管理などは楽であるものの、最低限の社会のルールを教えたり悩み相談に乗ったりと、フレンズが相手ならではの仕事が増える。「あれがしたい、そこに行きたい、って言われて振り回されることもしばしばでしたよ。好奇心も行動力も桁違いな子達ばっかりで」と不満げな口調のアカツキさんだが、表情は柔らかい。

 また、多様なフレンズと接して経験を積む目的もあって担当するフレンズの生物学的分類はランダムに決定されるため、知識を日々アップデートしていく必要もあったという。アカツキさんの担当したフレンズはアフリカゾウ、トムソンガゼル、エトピリカ、コモドドラゴンとバラバラだ。「毎回、一から生態とかを勉強して、そして実際にコミュニケーションをとっていくんです。でもこれって別にフレンズに限った話じゃなくて、動物もヒトもみんな同じく十人十色ってもので、それが他者と繋がる面白さなんじゃないでしょうか」というのが、かつての仕事場で得た彼の哲学であるようだ。


・飼育員と飼育員

 動物担当とフレンズ担当の飼育員同士で連携をとることも多かったと語るユカワさん。「私が担当していた動物がフレンズ化したことが何度かあって、そういうときはすぐに新しく決まったフレンズ担当の人に引き継ぐんです。この子は臆病だとか食いしん坊だとか、癖や性格なんかを教えたりしまして」

「自分が彼女からフレンズ化したトムソンガゼルの担当を引き継いだ時なんか、引くぐらい詳しく書かれたノートを渡されてびっくりしましたよ」と茶化して返せるくらいに信頼関係を築いている。横のつながりもしっかりとした職場だったのがうかがえる。


・閉園という壁

 XX年前、特殊生物セルリアンの同時多発的発生によりパークは突如閉園を決定した。その後すぐに飼育員を含む職員が新西之島市から強制退去となったが、動物やフレンズは島内に置き去りとなり、倫理的観点から社会問題にもなった。二人もそのとき島を出た職員である。

「悔しかったですよ、勿論。急に決まったことで、ちゃんと話し合ったりとか、送別会を開くとかも全然できませんでしたから。笑顔でお別れをしたけれど、泣きたくて仕方が無かった」と暗い顔をするアカツキさん。ユカワさんも同じ心情のようだ。

 唯一の救いは、パーク内で構築された自立型人工知能ネットワークインフラ「ラッキービーストシステム」のおかげで、職員がいなくても動物とフレンズの管理が維持されることだ。個体識別機能や医療スキャン機能などの多機能ロボットを用いたシステムの有用性は、ロボットを使っていた飼育員にはよくわかっていた。当事者たるユカワさんの言葉が胸に痛い。「残念ながら私達にはパークがどうなっているのかを知ることはできません。でも、ヒトがいなくなっても、ジャパリパークは動物とフレンズの楽園であり続けるんです。今、みんなはどうしているのでしょうか。元気にやっていてほしい」

(次回で本特集は最終回となります。ご了承下さい。)

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