第8回 医師

 ‪都内で内科医、小児科医として診療所を開業しているマツウラさん。泣き喚く子どもを前にして、物腰の柔らかい姿勢で的確な治療をこなしていく様は、まさにベテラン医師といった風情だ。‬

‪ 今ではベテラン医師の彼女は、かつてジャパリパーク内の病院で働いていた。「ずっと前のことですけれどね。‬‪テーマパークのある街の病院で、しかも人だけじゃなくフレンズも患者としてやって来る。今とはなかなか勝手が違う職場でした」‬


・観光地の医療事情

 ジャパリパークのあった旧・新西之島市は多くのパーク職員や関連企業職員、およびその家族が住んでいたため、一般的な医療インフラは充分に整備されており、むしろ新しい都市であったために先端医療の設備が充実していた。

 それに加え、世界最大規模の動物園であり、アニマルガールという特別な存在がいるジャパリパークは、世界各地から観光客が訪れる日本有数の観光地であった。このような観光地では、人の行き来によって海外から持ち込まれる「輸入感染症」に警戒する必要がある。よって、他の街よりも感染症に対するマニュアルがしっかり構築されていたとされる。

「一度だけ、マラリアに感染した旅行客を診たことがあります。東南アジアから来た方でした。日本で殆ど見られない病気ですし、診断した時は多少焦りましたけれど、専門家に担当を代わってもらって、感染が拡大することなく無事に治療を終えました」


・パークならではの病気

‪ 他にもジャパリパークならではの病気として、ヒトと動物の共通感染症が挙げられる。園内の動物は飼育員によって健康の管理がなされているとはいえ、感染経路になる可能性はある。「不測の事態に備えて、そういった疾患の薬、ワクチン等の用意は多めにしてありました」‬

‪ また、ジャパリパーク内はサンドスターの環境操作作用による影響で熱帯や寒帯といった異なる気候帯が隣接しているため、気温の急激な変化による体調不良やアレルギーを引き起こすヒトもいたようだ。

・医学的に見たアニマルガール

‪「やはり、診療の上で一番気を遣ったのはフレンズが相手のときですね。私たちのような医師だけではなく、飼育員や獣医と相談しつつ対処する必要がありました」とマツウラさんは語る。‬

‪ フレンズの骨格、内臓といった基本的な身体構造はヒトのものと同一であるため、病気による症状や薬理作用は殆どヒトと同じであった。しかし、食生活や睡眠時間などの生活習慣が大きく異なることもあるため、治療方針はフレンズごとにそれぞれ変える必要があった。‬

‪ また、フレンズはサンドスターを生命活動に使っているため、サンドスターに関連してフレンズ特有の病気も存在した。「自分の知らない病気だと思ったら、サンドスター欠乏症だったなんてこともありました。普通のヒト向けの医療をメインにしている私だけでは分からないことも多かったので、他の専門家との協力が大切でした」‬


・フレンズのお医者さん

‪ マツウラさんは都内の大学病院に勤務していたが、新西之島市内に病院ができたときに異動になった。‬

 新しくできたばかりの病院は慌ただしく、慣れない土地での慣れない生活に、初めは振り回されていたそうだ。「でも、すぐに落ち着きました。転勤の多い仕事なものですし、適応力が私の武器です」

 フレンズの印象的なエピソードについて尋ねると、「冬のインフルエンザ予防接種なんかは凄かったですよ。注射が怖いのは大抵の子どもと同じなんですけれど、大型の肉食の子、アムールトラちゃんとかダイアウルフちゃんとか、スタッフ数人がかりで取り押さえていましたし」と笑いながら答えた。

「若い時にそんな特別な場所で鍛えられたので、ちょっとやそっとじゃ動じない図太さが得られたと思います」と語る彼女は、いかなる時も温厚、冷静に立ち振る舞う、頼れるお医者さんとして親しまれている。

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