第2回 駅員

「懐かしいですね、オープン当初は、フレンズICパスのタッチが分からなくて改札に引っかかるフレンズが続出したものですよ」

 ジャパリパーク運営当時に敷地内を走っていたジャパリ鉄道の駅、パークセントラル西駅で駅員をしていたキタムラさんは、社員バッジを手にしながら、かつての記憶を語った。


・巨大テーマパークの交通事情

 広大な島を丸ごと利用して、動物園をメインとした複合娯楽施設中心型都市モデルを世界で初めて推進した旧・新西之島市(現・小笠原村新西之島)にとって、交通インフラの整備というのは大きな課題であった。動物がほぼ野生と同じ環境で生活している土地も多く、持続可能エネルギーの利用の推進を目指したこともあり、自動車による交通はあまり発達せず、電車やモノレール、船といった公共交通機関が主として用いられた。ジャパリ鉄道やジャパリフェリーといった企業が島内の人々の往来を担っていた。

 ちょうどその頃、地方の不況の煽りを受けて、とある第三セクター企業の私営鉄道会社から解雇されたキタムラさんは、運良くジャパリ鉄道へ入社することができた。「(元いた会社を)辞めた時は軽く絶望していましたが、今思えば運命の巡り合わせみたいなものを感じますね。ジャパリパークで仕事ができたのは幸運なことでした」


・フレンズの交通事情

 動物がヒト化した存在であるフレンズは、その身体能力も元の動物に依存し、サンドスターの影響で更に強化されていることが多い。時速50km超えで走るフレンズと衝突すれば、交通事故並みの被害が生じてしまう。そのため、都市部や試験解放区ではフレンズの公共の場での走行、飛行が一部制限されていた。

「フレンズ達との関わりは多い方だったんじゃないでしょうかね。他のエリアに行く時だけではなく、割と近場の移動でも頻繁に乗っていましたから」キタムラさんの言う通り、フレンズの移動手段として電車が使われることが多かった。パークに登録されたフレンズに支給されるICパスによって、交通費免除で自由に移動することができたから、というのが大きな理由であろう。


・交通機関としてだけではなく

 勿論、電車に乗るのはフレンズだけではなかった。我々ヒト、その中で観光客の利用も当然多かった。「パークに来たお客さん、特に子どもさんが、ホームで電車を待ってるフレンズの耳とか尻尾とかをジーッと見る訳ですよ。それに気づいて、大きい耳だろうとか、面白い模様してるだろうとか、自分の特徴を紹介してくれるフレンズもいたりしたんですよ。本人から生の解説を聞けてお客さんも大喜びって訳です」

 ジャパリパークの電車や駅は単なる公共交通機関としての役割だけではなく、フレンズと直接触れ合うアトラクションの一部としての役割も果たしていたのだ。フレンズICパスによる交通費が無料だった理由の一つでもある。街全体を娯楽施設として発展させた新西之島市ならではの戦略と言える。


・過去と現在と

 キタムラさんにとってフレンズは、客であると同時に、ジャパリパークを共に支える仲間でもあった。「観光大使のクジャクさんと電車ツアーの企画会議をして、スタンプラリーの企画に協力したこともありましたね。パークに来てもらった人に楽しんでもらえるのを目指していたのは、私達もフレンズ達も同じでした」

 パーク閉鎖後は一般企業で事務職をしたものの、定年退職後に都内の駅で外国人向けのボランティア活動を行なっているキタムラさん。観光客に楽しんでもらうために働くという姿勢は変わらない。「やっぱり駅で働くのが天職なんですよ。大変ではあるけれど、全力疾走するフレンズの駆け込み乗車に比べたらなんてことはないですよ」と言って楽しそうに、そしてどこか懐かしそうに笑った。

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