特集記事「あの楽園は今」

丁_スエキチ

第1回 教師

「みんな素直で、優しい子たちばかりでした。今でも当時の日常をありありと思い出せます」

 アニマルガールとの集合写真が乗せられた卒業アルバムを見せてくれたのは、ジャパリパーク運営当時、パーク内の教育施設で教師をしていたヤマモトさん。アニマルガール達に、義務教育相当の英語と人間社会の仕組みを教えていた。


・アニマルガールと教育

 サンドスターによる動物のヒト化現象が発生した当初、アニマルガールにはどこまで人権が認められるか、という議論が熱く行われた結果、教育を受ける権利が認められていた。それを踏まえ、アニマルガールに基礎的な学問や集団生活について教える教育施設に加え、より学びたいアニマルガールの為の高等学校や専門学校、更に大学が設置された。

 当時大学の教育学部に所属していたヤマモトさんは、パーク内の学校の教員の採用情報を見てすぐに申し込みを決めた。「こんな珍しい機会は二度とないと思い、申し込んだんです。授業を通してでも、とにかくフレンズと交流したくて仕方なかったんです。いささか不純な動機ですが」と彼女は笑う。

 高い競争倍率を乗り越えた彼女は、アニマルガール教育に向けた追加の研修も苦にならなかった。


・浮き彫りになる差を埋める

 しかし、実際に教壇に立つとなると一筋縄ではいかなかった。特に顕著だったのは授業中の居眠り。元々が夜行性の動物だったために昼型の生活に適応しきれなかったり、睡眠時間が長い動物だったりして、どうしても眠ってしまうことがあった。

「初めのうちは、普通の学校で居眠りした時のように注意していました。でも、ライオンは15時間以上眠る、みたいな生態を無視して人間の様式に合わせようとするのは傲慢ではないか、と気付かされたんです。こちらからも歩み寄っていかないとフェアじゃないなと」

 同僚や上司と協力して、授業要綱の改訂を上層部に提案し、臨機応変さを追求した。例を挙げれば、コウモリなどの夜行性の動物に向けて放課後に午前中の授業の補講を行ったり、授業中に小休憩を積極的に挟んで集中を途切れさせたりと、アニマルガール一人一人のための対策を講じた。結果は良好。アニマルガール側からの評判も上々だったという。


・学校生活とフレンズ

 最初のうちは学校というものに慣れないアニマルガールも多かったが、それはヒトも同じだ。小学校や中学校に入学したての児童、生徒と同じで、時間が解決してくれた。

「フレンズという呼び名にあるように、『まず友達になってみよう』と言って他者を受け入れることが得意な子が多かったです。そのおかげで、人間関係、というよりフレンズ関係で困ったことはあまりなくて、むしろ助けられたことの方が多いですね」とヤマモトさんは笑う。

「一番嬉しかったことは、先生の英語の授業のおかげで外国からの観光客と会話できた、と教え子から報告があったことです」大変ではあったが、報われる努力もあった。既成概念に囚われず、フレンズのために奔走した彼女が生徒に慕われていたということは、アルバムの写真を見れば明らかだった。


・フレンズとヒトと

 セルリアンと呼ばれた捕食生命体の増加によるパーク閉鎖以降、ヤマモトさんは一般の中学校教師を続けている。個人に合わせる、というジャパリパーク時代に培われた授業スタイルは今も健在だ。「フレンズごとに得意なことは違う、ということをパークで学びました。でもそれは私たちヒトも同じです。生徒個人によって得意不得意は違うし、生き方だって違います。生徒を第一に考えるなら、無理矢理私たちに合わせようとせずに、こちらが柔軟になるべきなんです」

 ジャパリパークは閉鎖してしまったが、彼女の教育方針にはしっかりとパークの記憶が根付いているのだ。(※不定期で掲載します)

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