動かす声

Cider(シードル)

第1話 別世界

僕は、ドアを開けた。ただ、次の部屋へ行くための、何もない普通のドアを。

でも、ドアの向こう側には誰もいなかった。


「……えっ?」

暇潰しに行ったおじさんの喫茶店のドアを開けた先、誰もいない。

通行人も、車も。

「またか」

今までも、何度かあった。原因は分からない。ここのドアだけじゃない。

学校、家、ショッピングモール……

絶対に人のいる所さえ、人がいない。

可笑しい話だ。でも誰にもこの事は話さなかった。馬鹿にされるだけだ。

それに、話しちゃいけない気がした。


初めてドアを開け、誰もいない所へ出たときは怖くなって戻った。すると元の場所へ戻っていた。


慣れたとき、少しその『世界』を歩いてみた。でもやはり誰もいなかった。

そして気づいた。

帰る方法が、分からなかった。怖くなって、足が震えた。

帰りたい、帰りたい、帰りたい━━━

必死になって、近くのドアを潜った。


元の町に戻っていた。


誰もいない世界から帰る方法は分かった。

帰りたいと願って、ドアを潜ればいいのだ。

でもその世界に、本当に誰もいないのだろうか?


今、誰もいない世界に誰かが居た。

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