氷室達也は世界を壊したい‼

三日月

破壊へのプロローグ

「やっとだ……やっと俺は……」

-世界を壊せる……

純白の仮面をつけた男性の前には、 世間では“ファントム”と呼ばれる人型戦闘兵器が一機静かに佇んていた。

彼の目的は、 各国が協力して極秘裏に制作された“ファントム”の奪取にあった。

その機体の内の一機が“日本”で極秘裏に制作されていると知った彼は、 その絶大な戦闘能力と“とある理由”が決め手のなりその機体を盗み出そうと考えのだ。

「おい‼いたぞ‼」

「いいか‼ 絶対に盗ませるな‼ もし“あれ”が盗まれでもしたら我が国の信用は地に落ちる‼ 奴を殺しても構わん‼ なんとしてでも止めるのだ‼」

国が保有している軍隊“日本平和維持軍”に所属する彼らは、 仮面の男に機体を盗ませまいとと彼目掛け何度も発砲する。

けれどそんな彼らを嘲笑うかの様に仮面の男はするりと“ファントム”のコックピットに乗り込んだ。

「やられた‼」

ファントムの装甲は特殊な金属が使われており、 銃程度ではとてもじゃないがダメージを与えることはできない。

その為ファントムにはファントムでしか対抗できないのである。

「ファントム部隊はまだつかないのか‼」

そう言った男性は自身の失敗があまりに悔しいのか下唇を強く噛む。

「隊長‼ ファントム部隊もうじき到着するようです‼」

「ええい‼」

彼らが悔しがっている間にも仮面の男は、 起動準備を手早く済ませる。

その手際はかなりの物であり、 熟練のパイロットと遜色ない物であった。

「準備完了。 コイツの名前は……」

目の前のモニターには大きく赤い文字で“モードレット”と表示されていた。

ファントムには、 基本昔の偉人や英霊と呼ばれる人物の名がつけられる。

彼の乗る機体の名は“モードレット”。

アーサー王伝説の中で登場人物のひとりであり、 反逆の騎士と呼ばれる人物である。

「さぁ起きろ“モードレット”‼ そして世界にお前の力を見せつけろ‼」

その言葉に呼応するかの様にモードレットの赤色の瞳がひかる。

「隊長‼ ファントム部隊到着した模様です‼」

「そうか‼ 間に合ったか‼」

その言葉に隊長と思われる男性は安堵した。

ファントム部隊は皆エリートである。

しかも日本のファントム部隊の腕は世界でも第三位とかなりの物であり、 そんな彼らがテロリストに負けるはずはないと踏んでいたからである。

「ほう。 ファントム部隊が到着したか」

仮面のの目の前には、 日本で製作された量産型ファントム“武蔵”が五機並んでいた。

量産型とは言ってもその機体性能はすさまじく、 普通ならば仮面の男が今置かれている状況は絶望的と言っても過言ではなかった。

そうであるにも関わらず仮面の男は、 コックピット内で暢気に欠伸をしており、 とてもリラックスしていた。

「目の前の機体。 今すぐ投降しろ。 そうすれば命までは取らない」

声はまだ二十代と思われるほど若い女性の声の物であった。

声を発した機体の肩は赤くペイントされており、 それはファントム部隊の隊長機のみ塗られるのである。

ファントムのパイロットに女性がいることはそれほど珍しいことではない。

けれどそれがファントム部隊の隊長となると話は、 変わってくる。

日本では、 女性より男性の方が優れているという考えたが主流であり、 その為ファントム部隊の隊長格ともなるとそのほとんどが男性が務めているのだ。

そんな中女性で、 しかも若いとなると相当な腕前を持っていることがうかがいしれた。

「聞こえていないのか? 今すぐ投降しろ‼」

女性は苛立たし気にそう叫ぶ。

けれど目の前の機体からは未だ反応がない。

その事から女性は説得に失敗したのだと判断すると腰に刺さっている“刀”を引きぬく。

だがその瞬間異変は起きた。

彼女の右隣りの機体が一瞬で破壊されたのだ。

「……な!?」

彼女の隣には先程まで沈黙を保っていた機体が立っていた。

この瞬間彼女は自身が奢っていたことを知る。

ーファントム一機。 しかも相手がテロリストならばエリート中のエリートである自分が負けるはずはない

彼女は先程までそう考えており、 出来る限り無傷で目の前の機体を鹵獲しようと考え目の前のテロリストに対し交渉を行っていた。

だがその考え自体が間違っていた。

ー奴は自分程度では止められない……

彼女の失敗の原因を上げるとすれば彼女は今まで負けることを成長してきてしまったことにあった。

だが気づくのが遅かった。

あまりにも遅かった。

「お前らの“甘い言葉”には、 もううんざりなんだよ‼」

その瞬間彼女が乗っていた機体は、 彼の機体が持つ二本の剣により真っ二つに切り裂かれていた。

「ははは‼ 弱い‼ 弱すぎる‼ こんなもんかファントム部隊は‼」

仮面の男の実力はすさまじく、 数分も経たないうちに彼の目の前にいた部隊は壊滅していた。

その余りの惨状に先ほどまでは安堵していた日本平和維持軍の面々は、 完全に心がおられてしまっていた。

「……まだだ。 もっと強い奴はいないのか‼」

彼にとって先ほどの物は自身と機体の相性を試すいわばウォーミングアップに過ぎなかった。

その為彼はまだまだ自身の実力を知りた勝ったのだ。

そんな彼の望みをかなえるかのように彼の目の前には総勢千機に及ぶファントム部隊が現れた。

「ふふふ……はははははははははは‼」

彼は、 仮面の下で獰猛な笑みを浮かべながら嬉々としてそのファントムの中へと単身飛び込んだ。


“3月31日”日本で最大の軍事施設であった札幌基地が跡形もなく潰されるという事件が発生した。

その被害をもたらしたのは、 ファントム一機であった。

そのファントム一機を止める為に日本軍は総勢千機に及ぶファントムをだすが抑えることはできず、 数時間と立たず札幌基地は跡形もなく破壊される。

その余りの惨状から人々はその日を“3月31日のナイトメア”と呼んだ。

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