76『男子生徒の姿』

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・76   


『男子生徒の姿』




「うわー」


 三人そろって歓声をあげた。

 一瞬、談話室が『英国王のスピーチ』の時代のようになった。

 秩序と気品と知性、品格、そしてちょっとしたウィットに満ちた空間に。

 でも、そのシャンデリアは数回点滅して切れてしまった。

「やっぱ、ボロ」

 夏鈴がニベもなく言った。



 最後に点滅したとき……それが見えた。


 一瞬、ピアノに半身を預けるようにして立っている男子生徒の姿が。



「あ……」

「どうかした?」

「え、ああ……ううん」

「へんなの。まどか、閉めるよ」

 夏鈴が、クシャミ一つして、里沙が電気を落としドアを閉じた。


 すると、微かに聞こえた……タイトルは思い出せない。だけど、優しく、懐かしいメロディーが。

 あの子が、あの男子生徒が唄っている……切れ切れに聞こえる歌。歌詞は文語調でよく分からない。里沙と夏鈴には言わなかった。

 言っても信じてもらえないだろう……二人に聞こえている様子がないもの。

 

 それに、あの男子生徒の制服は今のじゃない。

……玄関のロビーに色あせて飾ってある旧制中学校の時代のそれだったから。


 わたしは、頭の中で、そのメロディーを忘れないように反芻(はんすう)した。

「まどか、どこ行くのよ!?」

「え……」

 わたしは、正門から同窓会館に戻ろうとしている自分に……初めて気がついた。

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