75『同窓会館』
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・75
『同窓会館』
わたしたちは、その日のうちに同窓会館に行くことにした。
里沙が、ため息一つして見ておきたいと言ったから。
なんせ、ほとんど開かずの間。掃除や整理の見積もりをしておきたいという里沙らしい考えからだ。
下校時間を過ぎそうなので、そのまま帰れるように部室にカバンを取りにいった。
「……自衛隊の体験入隊って、なんなのよ?」
里沙が、ドアを開けながら背中で聞いた。
「あ、あれは……夏鈴がさ、エヘヘと笑って頭掻いちゃったりなんかするからさ……」
「あんなに誉められたら、ああするしかないでしょ」
夏鈴がフクレた。
「そうよ、それにマリ先生のことだって、まどか驚かなかったじゃないよ」
「それはね……」
……ありのまま全部話した。
祝福と非難が二人分……いえ、2×2=4で返ってきた。それも全身クスグリの刑で……すんでの所で笑い死ぬところだった(汗)。
部室の電気を消してドアを閉めようとした。
――あの部屋は止したほうがいいぜ。
マッカーサーの机が、そう言った……ような気がした。
「え……」
「どうかした?」
「早くしないと、暗くなっちゃうわよ」
里沙がせっついて、今、わたしたちは「室話談」と横に書かれた部屋の前にいる。ちなみに、部屋の看板は戦前に書かれたものなので右から読む。
ギー……と、歳月を感じさせる音がしてドアが開いた。
カビくさい臭いがした。
入って右側にスイッチがあると技能員のおじさんに聞いていたので、ペンライトで探してみた。
年代物のスイッチは直ぐに見つかった。
スイッチを捻った(文字通りヒネルのよね)電気は……点かなかった。何度かガチャガチャやってみた。
廊下の明かりだけでは、部屋の奥までは見通せない。
その見通せない奥から、だれかが、じっと見つめているような気がする。
これが理事長先生が言ってた、不思議だろうか……?
三人で身を寄せあった。
――しかたないなあ。
そんな感じで、二三度点滅して、明かりが点いた。
しかし、点いたのは半分足らずで、部屋はセピア色に沈んで薄暗い。
部屋の調度はピアノの場所だけ、一覧表の通りで、他の椅子などはまったく違った置き方になっていた。
さすがの技能員のおじさんも、この部屋ばかりは敬遠していた様子。
椅子にかかった布を取りのけると、薄暗さの中でも分かるくらいのホコリがたつ。
「まずは、切れてる電球替えてもらって、大掃除……三日はかかりそうね」
里沙が、だいたいの見通しをたてた。
「じゃ、もう帰ろうよ。なんだかゾクゾクしてきちゃったよ」
夏鈴の声が震えている。
「風邪なんかひかないでよね。体調管理も役者の仕事だわよ」
里沙が舞監らしく注意する。
「電球は生きてるのも含めて全部替えたほうがいいみたい。白熱電球なんか直ぐに切れちゃうよ」
「そうだね、全部で三十二個……やってくれるかなあ……ま、そんときゃ、そんとき」
「だよね」
「暖房は……スチーム。二十世紀通り越して、十九世紀だね。ヒーター四つは要るね」
と、確認して帰ることにした。
スイッチを切ろうとして、シャンデリアが二つあることに気がついた。
どうしてかというと、その時になって、初めてシャンデリアの明かりが点いたから。
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