57『今日のNOZOMIスタジオでした』

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・57   






『今日のNOZOMIスタジオでした』



「はるか先輩、テレビに出てたんですか……!」


 忠クンが、やっと声をあげた。

「もともと綺麗な子だったけど、こんなになっちゃったのね……」

 奥さんが、ため息ついた。

「ほんとにキレイだ……」

 忠クンも正直にため息。チラっと顔を見てやる。

「で、でも、スタジオで撮るとこんな感じになっちゃうんですよね」

 と、自分で自分をフォロー。いいのよ気をつかわなくっても。だれが見ても、このはるかちゃんはイケテルもん。

「はるかのやつ、大阪に行っていろいろあったんだろうなあ……これは、スタジオの小細工なんかで出るもんじゃないよ」

 そこでサプライズ。スタジオにスモップのメンバーが現れた。

――うそ……。

 はるかちゃんは口を押さえて、立ちすくんでいる。

 それから、二三分スモップに取り囲まれて会話。

――今日のNOZOMIスタジオでした。

 ナレーションが入り、中年のアイドルと言われる司会のオジサンの顔になって、録画が切れた。

「二人とも、冬休みになって朝寝坊だろうから見てないだろう」

「うちは、朝はラジオだから……」

 と、我が家の習慣を持ちだして生返事。

「うちは婆さんが、毎朝観てるもんでね」

「いつもは、ノゾミプロの役者の出てる映画とかドラマ紹介のコーナーなんだけどね、昨日は『ノゾミのお客さん』て、タイトルで、特別だったの。最初は、どこかで見た子だなあって思ってたんだけど、『坂東はるかさん』て、テロップが出て、わたし魂げて録画したの。ね、あなたも歯ブラシくわえて見てたもんね」

「ああ、最初プロデュサーのおっさんと二人だけの対談だったんだけどな。頬笑み絶やさずホンワカと包み込むような受け答え。それで目の底には、しっかりした自我が感じられた。あれはいい女優になるよ」

――本人にその気があればね。

 わたしは、クリスマスイブのはるかちゃんとの会話を思い出した。はるかちゃんは高校演劇が、やっと楽しくなってきたところ。プロの道へ行くことにはためらいがあった。

 ただ、白羽さんてプロデュ-サーの人が、とてもいい人で。この人の期待をありがたく感じながらも持て余していた。

 で、一度里帰りを兼ねてプロダクションを訪れたら、いきなりスタジオ見学……かと思ったら、しっかりカメラに撮られていた。で、例の携帯の電話。きっとこの収録をオンエアーするための確認だったに違いない。

――どうしようかなあ……というのが、はるかちゃんの話しのテーマだった。でも、オンエアーのことも、スモップに会ったことも、はるかちゃんは言わなかった。そこが、はるかちゃんのオクユカシイとこでもあるんだけど、幼なじみのまどかとしては、チョッチ寂しいのよね……それにスモップのサインとかも欲しかったしね。


 ヨウカンを一ついただいて、お茶を一口飲んだところで思い出した。



「なんで、忠クンここに居るのよ!?」

「それは、こっちが聞きたいよ。まどかのお兄さんから電話があって、ここに来てくれって」

「二人でいるの嫌か?」

 先生が、右のお尻を上げながら言った。で、一発カマされました。

「そう言うわけじゃ……」

 この……の間がナニユエであったかはご想像にお任せします。

「ほんとは、なゆたの兄貴を彼女ごと呼ぶつもりだったんだけどな、なんかこじれとるのか、鬱陶しいのか、二人を代理に指名してきよった」

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