14『オオカミ女になっちゃうぞ』
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・14
『オオカミ女になっちゃうぞ』
「やられたな……」
フェリペ坂を下りながら、峰岸先輩が言った。
「え!?」
「声がでかい」
「すみません」
「考え事してただろう?」
「いいえ、べつに……」
「彼氏のこととか……」
「ほんと!?」
夏鈴、おまえは入ってくんなよな!
「いま、目が逃げただろう。図星の証拠」
そう、わたしはヤツのことを考えていた。ここは、リハの日、ちょうどコスモスをアクシデントとは言え、手折ったところ。
で、幕間交流のとき見かけた姿……昼間なら赤く染まった頬を見られたところだろ。
ダメダメ、表情に出ちゃう。わたしはサリゲに話題をもどした。
「で、なにを『やられた』んですか?」
「サリゲに話題替えたな」
「そんなことないです!」
「ハハ……あの高橋って審査員は食わせ物だよ」
え?
柚木先生はじめ、周りにいたものが声をあげた。
「審査基準も、お茶でムセたのも、あの人の手さ」
「どういうこと、峰岸くん?」
柚木先生が聞いた。
「審査基準は、一見論理的な目くらましです。講評も……」
「熱心で丁寧だったじゃない」
「演技ですよ。アドリブだったから、ときどき目が逃げてました」
「そっかな……審査基準のとこなんか、わたしたちのことしっかり見てましたよ。わたし目があっちゃったもん」
夏鈴が口をとがらせた。
「そこが役者、見せ場はちゃんと心得ているよ。あの、お茶でムセたのも演出。あれでいっぺんに空気が和んじゃった」
「そうなの……あ、マリ先生に結果伝えてない」
柚木先生が携帯を出した。
「あ、まだだったんですか!?」
「ええ、ついフェリペの先生と話し込んじゃって」
「じゃ、ぼくが伝えます。今の話聞いちゃったら話に色がついちゃいますから」
「そうね……わたし怒っちゃってるもんね」
「じゃ、先に行ってください。みんなの声入らない方がいいですから」
「お願いね、改札の前で待ってるわね」
わたしたちは先輩を残して坂を下り始めた。街灯に照らされて、わたしたちの影が長く伸びていく。夏鈴がつまらなさそうに賞状の入った筒を放り上げた。
「夏鈴、賞状で遊ぶんじゃないわよ!」
聞こえないふりをして、夏鈴がさらに高く筒を放り上げた。
賞状の筒は、三日月の欠けたところを補うようにくるりと夜空に回転した。そんなことをしたら三日月が満月になっちゃって、まどかはオオカミ女になっちゃうぞ。
嗚呼(ああ)痛恨の……コンチクショウ!
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