12:メイクを落として制服に着替えた

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・12   

『メイクを落として制服に着替えた』




 幕間交流の間に、バラシも搬出も終わっていた。


 わたしは、スタンディングオベーションのきっかけになったアイツを探したかったけど、マリ先生の様子が気になって、搬出口に行ってみた。


 バタンと音がして、荷台のドアが閉められたところだった。


「まどか、大儀であった。じゃ、先に行ってる。柚木先生、あとはよろしく」

 柚木先生がうなづくと、トラックはブルンと身震いして動き始めた。助手席の窓から、お気楽そうに、マリ先生の手が振られた。二台目のトラックのバックミラーに、ほっとした山埼先輩の顔が一瞬映った。

 ため息一つつく間に、二台のトラックはフェリペの通用門を出て行った。実際にはもう少し時間があったんだろうけど、頭の中がスクランブルエッグみたくなってるわたしには、そう感じられた。


「じゃ、わたしたちは地下鉄で学校に行ってます」


 舞監助手の里沙がそう言って、あらかじめ決められていたメンバーを引き連れて歩き出した。学校で道具をトラックから降ろして、倉庫に片づけるためだ。

 残ったメンバーは、わたしも含め、誰も何も言わず、それを見送った。

「先生なにか言ってました?」

 柚木先生に聞いてみた。

「え……ああ、なにも。さ、わたしたちも交流会に行きましょ。そろそろ終わって審査結果の発表でしょうから」

「先輩。潤香先輩……」

 峰岸先輩に振ってみた。

「必要なことしか言わないからな、マリ先生は……大丈夫なんじゃないか」

 言葉のわりにはクッタクありげに歩き出した……ボンヤリついていくと叱れた。

「まどか、そのナリで交流会はないだろう」

 わたしったら、衣装もメイクもそのまんまだった。

「すみません、着替えてきます」

 ひとり立ち止まると、訳もなく涙が頬を伝って落ちた。


 メイクを落として制服に着替えた……気づくと、窓の外には夜空に三日月。秋の日はつるべ落としって言うけど……ヤバイ、もう八時前。審査発表が終わっちゃう!

 急いで会場に戻った。交流会はまだ続いていた。

「審査発表まだなの?」

 あくびをかみ殺している夏鈴に聞いてみた。

「遅れてるみたい……まどか、なにしてたのよ。さっきまでまどかの話で持ちきりだったのよ」

「うそ……!?」

「そりゃ、あれだけのアンダースタディーやっちゃったんだから」

「そうなの……でも、道具係の夏鈴がどうしてここにいるのよさ?」

「地下鉄の駅まで行ったら、お財布忘れたのに気づいて。そしたら、宮里先輩が『夏鈴はもういい』って」

「プ、夏鈴らしいわ」

「まどかこそ。楽屋で声かけたのに気づかなかったでしょ。お空は三日月だし狼男にでもなんのかと思っちゃったわよ」

「女が狼男になるわけないでしょうが」

「なるわよ。うちのお父さん、お母さんのことオオカミだって言ってるわよさ」

「だいいち、狼男が狼になんのは満月じゃんよ」

「うそ。わたし、ずっと三日月だと思ってた!」

「ハハ、でも、そういうズレ方って夏鈴らしくてカワユイぞ」

「どうせ、わたしはズレてますよ。まどかみたく物覚えよくないもん!」

「二人とも声が大きい……」

 峰岸先輩が、低い声で注意した……でも手遅れ。夏鈴の声で面が割れてしまった。

――え、乃木高のまどか!――あの、まどかさん!――マドカァ!!

 

 ……と、取り囲まれてしまった。

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