真夜中散歩

 中学3年生頃から、深夜にふらりと散歩をすることがありました。当時、ラジオの深夜放送を聞いたり読書をしたり、午前3時くらいまで起きているのが常でした。

 月の綺麗な夜は、誘われるままに散歩をしました。

 実家は掃き出し窓ばかりで、出る気になれば何処からでも外に出られたので、部屋から抜け出す事は簡単だったのです。

 水田ばかりで外灯もほとんどないような所なので、月明かりくらいでは怖いくらいでしたが、しんと静まった青い夜の景色は、綺麗だったのを覚えています。


 散歩で気をつけていたのは、魔の十字路には近づかないこと。うっかり近づくと、血染めの足跡や白い手があらわれ、歩行の邪魔をするのです。

 足跡は踏まないように気をつけ、逃げることも容易かったのですが、白い手は厄介でした。

 いきなりヌッと地面から出現します。肘くらいまで、ニュッと。それが1本とは限らず、ランダムに出現するのです。

 白い手はあらわれるとすぐに、ぐるぐると蠢きながら掴む足を探します。この手に掴まれると大変です。当然、逃げられなくなるので、運が悪ければ事故に遭います。


 私は一度だけ、捕まってしまったことがありました。

 缶ジュースを買いに自販機まで散歩した帰り道、うっかり十字路を渡ってしまったのです。

 道の半ばでガシッと足首を掴まれてしまいました。焦って振り払おうとしても敵わず、遠くにヘッドライトが見えたので「このままじゃ轢かれるな」と諦めた瞬間、もの凄い力で背中を突かれて転んだのです。

 道端に転がった私の横を、車が通り過ぎました。

 転んだおかげで左膝を怪我するし、飲みかけの缶ジュースは飛んでしまうし散々でしたが、轢かれるよりはずっとマシだったと思います。

 背中を押したのは、誰だったのでしょう。私を助けてくれたのだと思うのですが。


 危ない事もありましたが、面白い事もありました。

 『脳内迷路』でもチラリと書きましたが、ムーミンに出てくるニョロニョロのようなものをよく見ました。

 白くて細長いそれらは、よく屋根の上にあらわれたので、月明かりの夜は少し遠目でも見えました。

 海藻のようにゆらゆら揺れたり、ググッと縮んでは、みょーんと飛び上がったり。

 月明かりの中で楽しそうに見えたのですが、よく考えれば得体が知れない不気味な現象です。


 真夜中に散歩をすると、思わぬものに遭遇するかもしれませんよ。



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