贈り物

 一年に一度、誰にでも訪れる記念日といえば、誕生日。

 あなたにも、あなたにも、そしてあなたにも。

 もちろんわたしにだって持っている。

 それが、誕生日。

 母親のお腹から生まれてきた日なのは言うまでもない。

 友人のところに子供が生まれたのが一年前。

 早いもので、もう一年が経ったわけです。

 それを見越して、少なくもとも一年前から、「なにか贈ろうかしらん」と考えて過ごしてきたわけです。

 しかし、です。

 皆さんもよくよく御存知の、巷で話題どころか世界中で知らぬ者はないほど、猛威をふるい続けているヤツのせいで、身動きができなくなりました。

「そんなの、買いに行けばいいじゃないの」とか、「不要不急っていうけどさー、個人的だって用事なんだから、不要不急に当てはまらないんで出歩けばいいじゃん」とか、言ってる輩が世の中にどんどん拡散しているんだと、普段寡黙で蚊の泣くような声しか挙げないわたしでも声を大にして言いたいわけで。

 結局、予定はしていたものの買いにはいかなかった。

 もっと前に買えばよかったかもしれない。

 さらに今月は友人の誕生日。

 実はわたし、友人の誕生日を失念していまして、贈り物をしたことはただの一度もなかったのです。

 教えてもらった時、その子は小二だったので、いったいどれだけの歳月が過ぎたのだろうと指折り数えては苦笑するしかないのですが。

 いつか、きっと、そのうちに、なんて言ってると忘れてしまう。

 おまけに、忘れないように書いておいたメモ帳、こちらも随分昔に紛失しまして、贈りたくても贈れない状況が長らく続いていました。

 そして昨年。

 友人に子供が生まれ、お祝いを持って言った折、おじさんにコッソリと、友人の誕生日を教えてもらいました。

 長年のモヤモヤが一気に晴れた瞬間でした。

「一年後、絶対に贈り物をするんだーっ」

 と、わたしは自分に誓ったのです。

 そして今年。

 世間を騒がせているヤツの猛威に恐れながらも、「不要不急の外出自粛」を横目にしながら、どうしても今日を逃すわけにはいかないと意を決して買いに行き、速攻贈りました。

 来年にすればという考えもあるかもしれない。

 未来は誰にもわからない。

 来年、わたしが生きている保証がない。

 花見なんてしなくてもいい。

 これだけは、どうしても譲ることが出来なかった。

 遅くなったけど、なんとしても友人との約束を守りたかった。

 誕生日を尋ねたあの日、どうして知りたいのと聞かれて、「プレゼントをしたいから」と答えたときのことを、わたしは今も覚えている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る