スカイプでの会話 10

「ウイルスは、なんで宿主を攻撃するんだろうか。宿主殺しちゃったらダメじゃん。うまく共生しなさいよ」


「生物ではないから。生物とは、『複製能力を持ち』、『代謝を行い』、『膜系など外界との境界を持つ』という三要素を満たしていなければならない。ウイルスはDNAやRNAをタンパク質の殻で包んだだけという単純な構造をしてるから、不完全な複製能力はあっても、代謝はしないし、脂質二重膜を持つ生物の細胞とは大きく異なっている」


「ふむ」


「自分で複製や代謝ができないからこそ、他の細胞に寄生する必要があり、細胞に付着すると中にDNAやRNAが入り込み、細胞内のポリメラーゼやリボソームを拝借して勝手に自分の部品を作らせていく。部品ができると、中で固まってウイルスになり、やがて外に出て次の細胞へと感染する。これがウイルスの生活環」


「ふむふむ」


「外に出なければ問題はない。実際に、害のないウイルスも多数存在している」


「害がないウイルスっていうのもいるのか」


「ヒトゲノムにはレトロポゾンという、自らのコピーをつくってはゲノムに挿入していく『寄生体のようなDNA断片』と呼ばれるものが、自らのコピーを作って、それをゲノム上の別の場所に再挿入する。『コピー&ペースト』的な転移を起こすと、数がどんどん増え、ゲノムサイズが大きくなっていく」


「へえ」


「それはともかく、なぜ風邪やインフルエンザは人間を攻撃して場合によっては死に至らしめるのか」


「それだ」


「人間の行動パターンを読んだ策略、という考えがある。熱が出たり吐き気が止まらなかったりした場合、人は病院に行く。病院には体が弱った人がたくさんいる。ウイルスにとってみればチャンスなんだ。ガンガン攻撃して熱を出したり吐き気を催せば病院に行くからウイルスをばら撒けるぞ、と、行動パターンを読まれてしまっているんだ」


「思うつぼか、やるなぁ」


「生きているわけではないから、ウイルスが考えてそうしてるわけではないけどね。でも仲間を増やすとき、生物と同じようにコピーミスが起こる場合がある。攻撃性の強いコピーミスが出たとき、人間の行動パターンに当てはまってうまく生き残ってしまっただけのこと。強いのが生き残って広まり、強いが故に、宿主も殺してしまう」


「偶然なのか自然の摂理なのか」


「ウイルスは世代時間が短いため、とても早く進化する。一度勝利すれば抗体ができ、しばらくは同じタイプのウイルスには感染しにくくなる、でも、人口増加や畜産のせいで進化のスピードが速まり、人間の免疫だけでは追いつけなくなってしまった。毎年のように新しいインフルエンザが流行しているウイルスの進化に対処するには、人間側の世代時間を短くして回転を速くするしかない。ところが実際にしているのは少子化に晩婚化。人類は完全に劣勢で、文明が生み出した医学という武器を突破されたら敗北しかない」


「こわい」


「きちんとした生物学を学ぶところからやらないといけないかな」


「そこからかいっ。知識がだいじってことか」


「実生活につかえる教育に力を入れること。基本は大事。いまできることは普段の生活を改め、手洗い、うがい、食生活、睡眠、掃除 生活スタイルを見直すことかと」


「結局そこに戻るのね」


「基本は大切ですから」


「そうね」


「あとは、やると決めたらやる、という踏ん切りをつけれるかどうか。全てはそこにかかってます」

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