酸いも甘いも食い尽くす。
マ菜
悪夢
夢を見た。暗い道をただひたすら歩いている。心がざわついて後ろを振り返れば嫌な匂い、顔、声、目、痛み。感覚が全てあの日に戻ったみたいな苦しさ。息が詰まってそれらから逃げたくて前を向いて走り出した。息が余計にできなくなっても後ろからついてくる気配のせいで止まれない。振り返れない。怖い。涙がこぼれても、喉が変な音を出しても、苦しくて目が熱くて。もうだめだとしゃがみこんで暗い過去に触れられた。
《お前がいるから、遊んでもらってるんだから感謝しなさい、化物、一度人を殺してみたかった、あんたなんか産むんじゃなかった、死ねばいいよ、あんたなんか生きてる価値無いじゃん》
暗い、黒い、声。
「俺がいるから、泣いていいよ。そばにいるから。」
頬に暖かい手が触れた。あなたは、なんでここに、早くあなただけでも逃げないと飲み込まれてしまうから。
「よし、行くか。」
自分で逃げることを勧めたくせに立ち上がった彼を見て私は悲しくなって、目をそらした。なのにあなたは迷うことなく私の手を掴んで、立ち上がらせて笑って走り出した。
もう足は痛くて棒のようだった。なのにあなたが引っ張ってくれるから足は動いた。息は苦しくない。暗かった道はどんどん明るくなっていく。今度は安心して溢れる涙が寝る前のあなたの声を思い出させた。
《…今日、嫌な夢を見そうなの。だから寝るまで電話繋いでいても…いい?》
『いいよ。俺が助けてに行くから安心して寝て。大丈夫、俺がいるよ。』
ほんとに来てくれた。あなたはすごい。私の愛しい人。
「な、来るって言ったでしょ。」
にっと笑うあなたの顔は幼くて可愛かった。
目が覚めた。あなたに電話をかけてしまった。眠そうに電話に出たあなた。
「おはよう。夢、ほんとに来てくれた。」
「ん、約束したから。おはよう。」
「ありがと。お礼にアイスをあげよう。」
「やった。じゃ、いってらっしゃい。」
「うん、いってきます。」
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