Stardust symphony

けろよん

第1話 

 地球が青い星と言われたのは過去の話となった。

 今の地球は未知の異星人からの襲撃を受け、宇宙から降り注いだ様々な破壊兵器の影響で環境は激変。異形の怪物達が跋扈する荒野の星となり果てた。


 地上からかつての文明の栄華は失われたが、こんな環境になってもまだ生き残っている人々はいる。

 メル・アイヴィーは歌を伝えながら、各地を転々と渡り歩いていた。始めは一人だけの旅だったが、各地を訪れるうちに今では多くの仲間が出来、ともに旅をするようになっていた。

 


 荒野に砂埃が舞う。かつては繁栄して雅な姿を誇っていた都市が、今では廃墟の様相を見せている。

 数を少なくしながらも人類は各地に隠れ潜み、何とか食いつないで生きていた。

「はあはあ」

 ぼろを着た子供が巨大な蜘蛛のような怪物から逃げていた。

 彼は粗末ながらも食料が廃墟にある情報を得て、危険を冒して出てきたのだ。

 行きは上手く行ったが、帰りにへまをして見つかってしまったのだ。少しうかれて油断してしまっていたのかもしれない。

「ゴギャアアア!」

「うわああ!」

 怪物が吠え、子供は足を取られて転んだ。足に怪物の吐いた蜘蛛の糸が絡みついていた。

「くそ、この食料を届けられればみんなが救えるのに」

 怪物が凶器の足を振り上げる。彼は覚悟を決めた。その時、飛んできた銃弾が蜘蛛の体を貫いた。

 メルは遠くからの声を聞き届けてここへやってきた。人を助ける。彼女にとってはもう何度目かの体験だった。

 怪物は怒りの形相をメルに向かって見せるが、さらに周囲から次々と飛んできた銃弾に撃ち抜かれ、大きかった的は蜂の巣になって倒れた。


 少年の耳に歌が聞こえた。そう思えるような優しい声だった。放心して疲れ果てた体が癒されるかのようだった。

 メルは彼に向って優しく話しかける。

「大丈夫? 立てる?」

 この殺伐とした世界だ。初対面の相手に敵意のないことを示すのは重要なことだった。メルはそこまで意識して行動しているわけではなかったが。

 ただ当然の行為として人を助ける。

 どれぐらいそうしていただろうか。やっと気が付いたのか子供は手を取って立ち上がった。


 また人と繋がりあえた。手のぬくもりを通して。それをメルは嬉しく思える。

 いつの間にか多くの戦士達が集まって、襲い来る怪物達と戦っていた。

 仲間をやられて逆上したのだろうか。怪物達はどれだけ銃で撃ち抜いて爆弾で吹き飛ばしても次々とやってくる。

 この星ではもう人間よりも異形の怪物の方が数が多い。そう人々が噂するのも今の時代では真実かもしれない。

 戦っている男の一人が銃を撃ちながら話しかけてくる。

「長くは持たねえ。メル、ここから早くずらかった方がいいぜ」

「うん、でも、どこへ行けばいいのか分からないわ」

「それなら僕に案内させてください!」

 冒険者達はこの辺りの土地勘があまり無いようだ。子供は地元をよく知る人間として彼らを案内することを申し出る。

 善意を断る理由はない。メルは快く頷き、人々は行動を開始した。



 敵の包囲の薄い場所を集中砲火して突破し、地理をよく知る少年の案内で追っ手を撒いて、何とか町にたどり着くことに成功した。

 帰ってきた子供を町の人達と長老が出迎えた。

「よく戻ってこれたの。無茶しおって。おや、見慣れぬ方達がおるの」

「僕を助けてくれたんです」

「お初にお目にかかります」

 グループのリーダーである男が挨拶をする。

 メルにとっては交渉事は専門外なのでただ見ているだけだ。ただ人々は精力的に生きている。そんな眩しさを覚えるのだった。


 人々は情報交換をする。今までも何度も目にしてきた光景だ。

 メルにとって旅は気ままなものだったが、強い目的意識を持って行動する者達は大勢いた。

 メルの見ている前で細かった糸が次々と繋がっていって、強い光となって結束していくのが見えるようだった。それはこの時代を照らす光なのだろうか。


 この厳しい環境にあっても人類は生きることをあきらめたわけではなかった。各地で反抗するための動きを始めていた。

 今訪れたこの土地にも戦いに役立つ施設があったようで。ここまで案内してくれた子供まで協力して研究に参加していた。


 月日が流れた。メルは歌を歌った。夜空が綺麗だったから。子供が誘われるようにやってきて、歌い終わるのを待って声を掛けてきた。

「綺麗な歌だね。何て歌なの?」

「名前は無いわ。星を見て歌ったの。あなたはこの歌を綺麗だと思うの?」

「うん、こんな世界であっても歌は変わらない。きっと人間も」

「あなたの優しい心も?」

「う……」

 少年は頬を赤らめる。それが何だかおかしくてメルは少し笑った。少年はうそぶくように言った。

「すぐに取り戻してみせるさ。闇に負けないぐらい美しい星も。僕達の手で」

「うん、あたしも頑張る」


 そして、時は流れ、反抗作戦の時が来た。

 地下の施設に密かに建造されたロケットをメルは見上げた。

 宇宙に艦隊を置く異星人に対し、こちらも宇宙船で空に上がる。凛々しい青年戦士の顔つきとなった少年も戦いに参加することになった。

 今まで世話になったのだ。メルは見送りに行くことにした。

 伝えられることはあるだろうか。ただ心のままに言うことを決めた。

「宇宙にあっても優しい心を忘れないで」

「ああ、僕は僕の心のままに敵を打ち倒す。そして、みんなが安心して歌える綺麗な星を取り戻すよ」

 宇宙船が飛び立つ。見送る人々の心も乗せて。

 噴射煙を引いて、メルはどこまでも高く飛び立つロケットを見上げる。そして、宇宙を想像した。


 少年が初めて見る宇宙は暗くて寂しい場所だった。今まで自分達のいた大地が、異形の怪物がはびこる荒野であっても、あの星は間違いなく自分達の星だった。

 そう実感できる景色がそこにはあった。

 目標である敵の艦隊はすぐに捉えられた。無数に迫りくるビームの光。その光条は地上からでも空に薄っすらと見えていた。

 少年は戦闘機に乗って宇宙船から飛び立つ。人々の安寧を願ってメルは歌った。

 その歌はすぐに地球の各地に広がった。

 戦士達は戦う。この時のために準備をしてきた。各地の人々が結集し、多くの仲間達とともに戦いに参加した。

 地球に攻撃を仕掛けてきた宇宙人に今、人間の強さを示す時だ。彼らの耳に歌が聞こえる。後押しされるように人々は飛んだ。


 人間は野蛮な生き物だ。宇宙で暮らす誰かが言った。今のうちに摘み取ろうと宇宙船の集団が動いていた。

 だが、人間は本当に野蛮で救いようのない生き物だったのだろうか。それならこの強く美しく向かってくる生き物は何なのだろうか。

 人間の必死の猛攻に宇宙船は後退する。世界に青空が戻っていった。

 宇宙の脅威が去り、地上で暴れていた怪物達も徐々になりを潜めていった。

 太陽の照らす空をメルは人々とともに見上げる。

 戦いは終わった。だが、真に平和を導くのはこれからだ。

 歌を歌おう。地上に、空に、その果てまでに届くよう。

 戦士達に一時の安らかな時間が訪れる。 

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