故郷

「ここなの?」


 目の前に広がる広い土地を目の前にルルは問う。ここにたどり着いた時誰もが困惑した。事情を知っている俺たちはもちろん、詳細は聞いていない緋音やベロニカも。そして、ここまで案内したシャリア自身も。


「たった数年で……こんな?」



 彼女は愕然とした様子で地形や草木の間から元・故郷を覗く。


「おめえら!この辺りの地形はわかったか!」

「もちろんでさあ!近くにエルフの村があることもわかってやす!」

「丁度いい、これからそこ襲うぞ!」

「エルフは上物が多いと聞くからなあ!全員殺さず何体か捕らえろ!お得意様が買ってくれるぜ?」

「お頭ぁ!もちろん、期待してもいいんですよね?」

「ったりめえよ!売り払うのとは別でおめえらに回してやんよ。精々、?」


『『ヒューッ!さっすがお頭!』』



 そこは野党のキャンプとなっていた。しかもしっかりとした家らしきものがある辺り何年も居るらしい。数は……二十ってとこか。筋骨隆々……ではないが、それなりに筋肉はあるな。元農民か?数だけ見れば殺れない事は無いが実力がわからん。連中、エルフをやると言っていたな。森の中でのエルフは……やばいぞ。それを倒すのか?


「エルお姉ちゃん?」

「大丈夫よ。彼らが言っているのは私の村じゃない。でも……同族を襲うと言っている。止めない訳にはいかない」

「なら、止めないとな」

「お兄ちゃん、手があるの?」

「手があるというか殲滅するだけなら簡単なんだけどな。ただ、ここはシャリアの故郷だ。なるべく早く、かつ血は少なめに行こう」

「ゴブリンと同じ?」

「意味合いではそうだが敵は人間。脅威の度合いは大きく違う。出し惜しみはしてられない。さっきのはあくまで希望的観測ってやつだ。っとそうだ、緋音はここで待ってろ。手早く済ませてくるから」


 すぐに各々がどう動くべきかの相談が始まる。どうやらベロニカも参加するようで火力は申し分無いだろう。基本はルル、エル、カルナの三人の援護と前衛に俺とシャリア、マナ、ベロニカ、加えてメノが遊撃に入る基本的な展開を行う。


「ねえ、先輩はどうして戦えるの?言ってることはあれだけど……人だよ?」

「人……人か。なるほど、あれは人なのか。確かに……まだ仕方ないか」

「先輩?」

「いや、責めるわけじゃない。思えば真っ当な感性だと思ってな。でも一つ聞こう。他人から無理やり略奪し虐殺強姦上等の連中は、人か?」

「えっ……?」

「少なくとも俺は人としては見れない。ただの肉袋だよ。さあ、皆行くぞ。早いところ終わらせよう」


 ちらと背後を見れば彼女は何やら複雑そうだ。それも仕方ない。だがあえてああいう言い方をしたからな。

 初めて人殺しをしたのはあの遺跡での時。あの時は「ルルを守る」という大義名分の元殺したが、他はそうもいかない。いつか何処かで殺さざるを得ない時があるだろう。だから作り上げたのだ、基準を。人を殺すか生かすかの絶対的基準を。水の入った袋を破いたところで心が痛む人間は居ない。連中はそうであると

 ……正直、そうでもしないとやってられないのだ。


 ニュクスとパンドラの薬室内に弾が装填されていることを確認し、物陰に隠れる。皆、それぞれが奇襲をかけられる位置に待機している。更にこちらにはカルナが居る。そう、あの帝国製の通称・魔力銃の修復改造版、試射した後の調整を経たその完成系である。銘を〈六杖〉という。


「……師匠の邪魔」


 カルナの狙撃が開戦の合図となった。

 予期せぬ距離からの狙撃は中心にいたお頭とやらの頭部をぐちゃぐちゃに吹き飛ばす。さっすが対物ライフル。人に使うもんじゃないわな。

 その光景に感心しつつも物陰から飛び出て両手に持ち替えたショットガンで一度に数人を片付ける。連中は盗賊に分類される。聞く限りだとあまり金属鎧を身に着けることは無いらしい。まず金属鎧を揃えるだけの金がないことと売った方が稼ぎがいいこと、そして機動力の低下があるらしい。実際に元盗賊のハンターから聞いたから信憑性は高いだろう。そしてそれは間違いないらしい。現にこいつら、皮鎧くらいしか身に着けていない。武器は襲って奪ったのか、何人かは上物を持っている。


「だが武器だけ揃えてもなあ!」


「「グワーッ!!」」


 ショットガンの連射にルーナの仕様である回転させてリロードする動きは勢いよく回したことでアッパーのように顎を打ち据えた。


「てめえ!死ねえ、イヤーッ!!」

「返すぜおらあ!」

「グワーッ!」


 唐竹割のように剣を大きく振ってきた男に対し左足を半歩引くことで目の前に剣を通過させ、振り切って持ち上げようとするところで引いた左足でのハイキックが顔面に突き刺さる。


「ガキ一人に何手こずってやがる!!」

「で、でもこいつら女もべらぼうに強くて!」

「ならまずは男の方を殺れ!!一斉にかかれ!死んだ奴の仇だ!!」


「「「ざっけんなこらー!」」」


 おいおい、ここはどこぞのネオサ……ゲフンゲフン。ただの偶然だろうそうに違いない。いいね?

 しかしこいつら統制が取れている。指示出してるのは顔は見えなかったがさっきの奴だな。

 囲まれて回避できない、そう思える状況だが心配はない。なぜなら……


「クハハハハ!旦那様には手出しさせぬわ」


「「「グワーーッ!!!」」」


 背後より跳びかかる人影に真っ二つにされる盗賊ども!なんということか、あの屈強な男たちが一度で!

 高速で跳び回り切り伏せていく様は正しく八艘飛び!


「こんなものかの」

「助かったベロニカ、ありがとな」

「うむ、この程度造作もないこと。むしろ旦那様の方に固まったからやりやすかったわ」

「そうか、ところでその旦那様ってのは?」

「む?伴侶となる男のことをそう呼ぶのじゃろ?ならばお主は妾の旦那様なのじゃ。妾とお主は既に妾ら一族の血の契約に縛られた身じゃ。旦那様と呼ぶことは何もおかしくないのじゃ。よいな?」

「アッハイ」


 血まみれの斬馬刀を片手に笑顔でずいと近づいてくるベロニカの謎の圧に負け、俺はうなずくしかできない。というかさっき振りかぶってた時その剣片手で使ってたよな、かなりデカいし重そうなんだけどそれを片手で?マジかよ、後でしっかり聞いておこう。


「というか目、どうした。赤くなってるぞ?」

「む、これか。種族的なものでな。興奮すると目が赤く変化するのじゃ。元の色が何であれ、な」


 充血……って訳じゃ無さそうだな。なら何なのだろう。ファンタジー的不思議効果にしておこう。


「くそっ、なんなんだこいつら!」

「逃げてくだせえ!俺が何とか時間を……」


 さっきの指示出してた奴がまだ生き残っている。何人か周りに下っ端が固まって……あ、カルナにやられた。衝撃で散らばったところにマナとシャリアの斬撃にエルの正確な矢が飛ぶ。

 あらら、逃げる間もなく息絶えた。


「そこまで疲れるものでも無かったの。旦那様もそうじゃろ?」

「俺は囲まれたからな。なんかやたらと俺の方来るから疲れはしたが、基本体術で凌いでたし、囲まれた時にはベロニカが一気に片付けたし」

「ふふん、さすが妾じゃな」


 薄い胸を張って誇らしげだが目の前は文字通りの死屍累々。具体的には上下に半分になった死体が一所に纏まっている。あとは魔法に身体を穿たれてたり首筋斬られてたり頭が吹き飛んでたり矢が突き刺さってたり。色んな死に方の見本市みたいな。


「少々血なまぐさいが、これでシャリアの故郷は取り戻したことになるわけだ。……どうだ、さすがに変わってるだろうが周りの風景とかは見覚えあるか?」

「はい、それにこの盗賊たちの家が元々私たちの村の家の基礎を流用してます。それなりに数は減ってますが建物の位置とかは見覚えがある物もあります」


 彼女の目には涙が浮かんでいた。それもそのはず、何年かぶりにやっと戻ってこれた故郷だ。仇も打ち倒してようやく。


「で、どうするんだ?前言ってたみたいに村の中央で龍の頭踏みつけるか?」

「え、私そんなこと言いました!?」

「おう、やけに威勢よく言ってたな」

「ああ、そんな事言ってたわね。どうするのシャリア?」


 そんな俺たちにシャリアは顔を赤くして「無かったことでお願いします……」と蹲ったのだった。

 その様子が普段の彼女と違いすぎて思わず笑いが漏れ、つられた皆も笑い出す。

 笑い溢れるそこはつい先程まで戦闘をしていた場所とは思えないほど賑やかに変貌した。次第にシャリアも普段の調子を取り戻して俺たちを止めて回るのだった。





★★★★★★★★★


書いてる時ニンスレ見たんです…許して欲しい。いいね?

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