第4.5発

ドワーフ姉妹

 カーンカーンと音が鳴り響き、まるで赤い風が見えそうな程に大きく開けられた扉から流れ出る熱風。

 季節としてはまだ夏ではないはずなんだけどな。ここだけ夏の暑さだ。


「おーい親方!来たぞぉ!」


 気安い口調で声を掛けれるのは友好関係を築けている人物との特権だな。

 そして相変わらず入口の時点で凄い熱気だな。半袖の上にコート着てるおかげで多少は軽減されてるけど、それも多少だ。巨大な炉がある内部ではどれくらいになったんだっけ。


「親方ぁ!居るかあ?」


 今日は王都に帰ってきてから二日目。昨日は帰ってきて掃除をするのにバタついたからな。少し落ち着いた今日は休みなんだ。

 飯の仕込みも終えたから俺はもう暇。だから他に暇してた俺含めて四人で工房に顔を出しに来たわけだ。依頼したい物もあるし。


 そうそう、仔竜たちは今日はハントさんと躾に三日ほど前から行ってるみたいでな。今日の夕方には帰るそうだ。

 怪我で向こうに一週間ほどいたから入れ替わりになっちゃったけど、この二ヶ月でどのくらい成長したのか楽しみだ。


「おーい!居るのか──」

「聞こえとるから、大声出すな。久しぶりだな、ヤマト。っとその腕どうした?」

「久しぶりだな、親方。ちょっとばかし依頼でヤバいのに遭遇してな。折る程度で済んでよかったぜ」

「そりゃ災難だな。さ、なんか用があって来たんだろう?とりあえず入れ」


 熱気の中から現れた親方は汗びっしょりだ。こりゃ、コート脱いだ方が良さそうだな。


「こりゃ凄い熱だな親方、なにかあったのか?」

「い、いやー……な、ちょっといろいろあってな」

「何があったんです?」

「いや、それは後で説明しよう」


 親方に連れられ、メインの大工房を抜けその先にある会議室っぽい場所に俺たちは入れられる。


「だいたい二か三ヶ月くらいぶりか。で、何が入り用だ?まさか龍の武具が砕けたとかじゃあ無いだろう?」

「まあな。依頼したいのかこいつと……」


 隣に座る妹分ことマナの頭をポンと叩く。


「俺の武具だ」


 それを聞いて親方は目を細める。職人の目だ。

 どうやら俺の銃を作り上げた時から元々火のついていた鍛治魂にさらに点火したようで、色んな武具について調べているらしい。


「ほう?なんか図面とかはあるのか?」

「もちろん。親方に頼んで居たやつの追加の図面と合わせて大量にある。この怪我のおかげで足りねえもんがわかったからな」

「おおそうだったな。完成してるぜ。ちょーっとばかし手が加えられちまってるが」

「え、手が?」


 親方は何やら申し訳なさそうに部屋から一度出ると、少しして少し大きめの木箱を持ってきた。

 中身を取り出すと、親方はより申し訳なさそうになった。

 だが、俺の目線は別のところにあった。


「こいつだ。……見ての通りちょーっとばかし手が加えられちまってる」

「……」

「いや、こいつは俺の責任なんだ。本来なら俺がやるべきことを知り合いに任せちまってよ」

「……」

「だから、責めるなら俺を責めてくれ。それを作ったやつは責めないで欲しい」

「……親方、これ?」

「本当に……え?」

「こいつは……責められねえよ」


 手に取って、細かなところまで眺めてもこれは責めるどころの話ではない。多分前回の銃作成時の資料でも見たんだろうが、よくもまあここまでやったもんだ。


「親方、誰がこれをここまで作り上げた?話してみたい」

「お、おう。ちょっと待ってろ」


 また部屋を出た親方を待つこと数分。

 手元のブツを眺めながら待っているとすぐだった。


「あんただね?こいつを持ってきたのは」


 親方が連れてきた人物。


 どんな者かとそちらを見てみると、そこに居たのは、赤銅色と薄青色の髪の二名の褐色ロリであった───




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「な、なるほど……予測と想像か」

「そうそう、ここの機構がここまで単純なら二つ並べられるし、それにおっちゃんが残してた資料から持ち手もなんとなくは想像出来たし」

「でも細かな寸法とかは分からなかったはずだが?」

「大きさをこの機構とかと接着出来るように小さく考えれば簡単よ?」


 あーだめだ。加工チートに何言っても無駄だ。こいつら……いや、ドワーフたちはもう完全に勘だけで素材加工出来るんだな。そりゃあ完全な図面も無しに二連装ソードオフショットガン完成させられるわ。

 いくら残すはストックとかの細々した部分だけとはいえ普通不可能だろうよ……


「ん、簡単。難しいのは加工だけ。形が想像出来ればさらに早い」

「あ、そっすか」


 はぁ……なんだろこのやるせない感。いや別に銃の製作に何か不満があった訳じゃなくてな?

 もしかしたらと圧力の概念とかそこら辺の最低限の近代技術の心配をしていた俺の心労よ。

 その気になりゃ簡単な説明だけで機関銃クラス作れるんじゃねーの?


「まあ……ありがとよ。期待以上の出来だ。で、親方。こいつらは誰だ?親方の子供か?お祝いでも持ってくるか?」

「馬鹿言え。だ〜れがこいつらの親だ。こいつらは俺の妹弟子に当たる。俺の師匠の弟子の中でも屈指の天才よ」

「あたしはフレア。こっちは妹の」

「ん、フリーゼ。あと私が姉」

「違うな。あたしが先に産まれたし、腕の上だ」

「違う。お姉ちゃんは雑。細かなところが雑。腕は私が上」


 言い合いを始めた二人を見て親方はため息をつき、ルルたちはあっけにとられている。

 でもなるほど。

 赤銅色の方が姉のフレア、薄青色の方が妹のフリーゼで、姉の方は多分大雑把な加工が得意、妹の方は細かな部分の加工が得意ってことなのか?

 というか、フリーゼの方が自分で妹だと名乗ってるじゃないか。なんだこれ。


「あーヤマト、こいつらは本当にこんなだが、俺らの大親父……ドワーフ族の族長直下の弟子なんだ」


 さっきはへぇー!って思ったけど、目の前の喧嘩を見てるともう一度言われると、え?ってなりかねない。


「はあ……こいつを作り上げたのはどっちだ?」

「あたし!」

「私」


「ダメだこりゃ」


 俺がそう呟くくらいには話が進まない。

 多分二人の合作なのかもな。それなら揉めるのも当然だが。でも揉めてばっかじゃ依頼も期待できないか?


「……しばらくこいつらは放っておいていい。で、何の話を……そうだお前さんらの武具だったな。どんなのが欲しいんだ?」

「あ、私の鎧と新しい剣!」

「お、嬢ちゃんは新顔だな。新しい仲間か?」

「おう、王都で出来た初の仲間だな。俺たちの妹分だ」

「マナです。よろしくです」

「おし、任せとけい!で、どんなのが欲しい?」


 親方がもう完全に二人を置いて、マナと話し込む。

 俺たちは完全に空気だ。姉妹喧嘩を眺める観客みたいになっている。


「そういや、あんたらは何か用があって来たん?」

「お、ようやく姉妹喧嘩も収まったか。もちろん、用がなきゃ来ない」

「じゃあどんなのが欲しいのかあたしらに聞かせてよ」


 えー、手元のショットガンを見るに、腕が良いのは確かなんだろうがあまり銃の存在そのものは広めたくないんだよな。

 銃というものが過去に存在していたのは確かだ。でも既に一度廃れて現在の飛び道具の常識は弓矢。俺の持つ銃はまたその環境を大きく変えかねないから親方とかの一部以外には図面すら見せないようにしていたのだけど。


「隠そうとしても無駄。あたしらそれがなんなのかくらいは知ってる」

「ん。資料に出てた」

「資料?まさかドワーフの国に残ってるのか?」

「少しはね。ろくに残っちゃ居なかったけど、それで色々知った。だからこっちに出てきた」

「出てきたって事はここに元からいたわけじゃ無いのか。道理で見たことないわけだ」

「その二人はこっちで二年間過ごす。ドワーフに囲まれた環境じゃなくて街で過ごすやり方を学べとの大親父からのお達しでな。俺も昔やった」


 ドワーフの留学制度か。確かに、周りにドワーフしか居ない環境だとそれが常識になるからな。外に出て色んな経験を積めってことなんだろう。


「あれ、マナのはもういいのか?」

「鎧とかよ大半はエヴトの領分だ。あとはそっちに丸投げするだけよ。さてと、ヤマトの作りてえもんを見せてくれねえか?」


 親方に言われ、俺は自身が背負う魔法袋から図面の束を取り出す。その量に親方は一瞬目を丸くするが、すぐに職人の目に変化する。

 姉妹はと言うと……


「こ、これ全部図面!?」

「凄い。ここまでの量は国にも無かった」

「全五種類分の図面だが優先順位がある。技術的な面で心配な物もあるからな」

「優先順位?」

「こいつを含めて俺の手元には二種類の銃がある訳だが、それだけでは足りないんだ」

「なるほど、暗器と同じことか」

「そうだな。一種類を極めても、対抗出来る相手は少ない。せめて身を守る為にも最低限必要な物は揃えなきゃいけなくなった」


 すると三人とも真剣な眼差しで目の前に積まれた図面を捲る。


「ここが動くとこの部品が外れて稼働するの……」

「ふむ、こいつぁ……」

「ん、凄まじい」


 それからしばらく。


 三人が一通り図面を見終わる頃には時間はいわゆる、おやつの時間というものになっていた。

 親方たち三人が図面を見終わるまで、いつの間にか戻ってきていたマナと一緒に工房の人が出してくれたお茶を飲みながら待っている。


「とりあえず、一通りは見終わった。で、その優先順位というのを教えて欲しい」

「そうだな……図面の三番ってついてるやつがまずは最優先で頼む。次点で五番の物だな」

「よし、ならば……」


 親方がまた工房の面々で誰が担当するのかを考えていた時だった。


「なあおっちゃん。その仕事、あたしらにやらせて欲しい」

「あぁん?」

「おっちゃん、前にあたしらに仕事なにか任せるって言ってた。これ、やらせて欲しい」

「ま、まあ言いはしたが……」


 あ、親方もしかして弟、妹弟子とかには弱いタイプだ。だって今の親方完全に二人にタジタジだもの。


「それに、あたしらはこれが何かを知っている。それを作り上げたのはあたしらだ」


 え、マジか?

 いや完全な図面無しに完成させてるのは見ての通りだけど、そういうってことはまさか……


「ああ、ヤマト。そいつに関しては俺は一切関わってねえ。図面を元に金属の鍛錬、細かな部品細工の全てをしたのは──」


 すると、二人はものすっごく自慢げな顔で、


「──その二人だ」


 もう完全にドヤってやがる。赤銅色の方は完全に胸を張ってドヤり、薄青色の方は無言で、無表情ではあるが胸張って明らかに自慢げだ。


「ふふん、あたしらに任せたくなったろ?」

「ん、任せたくなってる」


 いやそんなキラキラした目で言われても……


「良いんじゃないですか?二人にとってもいい経験でしょう」

「……?エヴトさん」


 休憩ついでなのか手元には菓子の入った皿を持って部屋に入ってくる。


「皆さんにお聞きしますが、どのくらいで完成させて欲しいですか?」

「そうだなぁ……どうなるにせよこの怪我で確実に半年はまともにハンターの活動は出来ない。仮に作ってもらったとして慣らしも含めたらまあ四から五ヶ月くらいか。それくらい掛けても大丈夫だな」

「そうね。ヤマトが動けないと私たちも動けないし」

「じゃあそのくらいを目処に日程を立てましょう」

「むむむ……」

「頼まれているのでしょう?経験を積ませてやってくれと」

「それはそうなんだが……」

「それに、それを作り上げたのでしょう?二人が勝手に始めたとはいえそれを見守っていたのはあなたじゃないですか」

「そ、それはそうだが……」

「ならば時間もあります。下地もあるのですからやらせてみましょう。皆さんが良いのであればですが」


 エヴトさん、そこで俺たちに振りますか。そんな言い方をしちゃ二人が俺たちに頼み込んでくるに決まってるじゃないですか。ほら、今だって目をうるうるさせながら手も握ってきてる。


 はぁ……

 俺は残りの三人に目を向ける。すると、苦笑いで頷いた。


「俺たちはこのとおり構わないが、出来るのか?マナの武具に俺の武具。それなりに数があるが」

「あたしらを舐めてもらっちゃ困る。そいつだってあたしら二人で一週間で作り上げたんだ。構造がよく分からなかったから時間がかかったが、二度目はもっと早く出来る!お願い、やらせて!」

「へぇ、そうなのか……」


 すげえなドワーフ。本当に加工チートじゃん。


「良いだろう。それじゃあ、俺の武具は二人に任せる」

「え!本当!?」

「ん!?」

「おう、こいつをここまで作り上げたんだ。試し撃ちしないとまだ何とも言えないが、一旦は二人に任せると言うことにしておく」

「やったぁーーーっ!!」

「よし、それじゃあ細かな注文を言ってくぞ。用意は良いか?」

「よしきた!」

「ならまずは──」


 俺は今後完成する武具に必要な注文を一つずつ、そして正確に伝えていく。そして、二人の顔がもうたまらなく嬉しそうになる頃に全ての注文が終わった。


 うんうん、喜ぶのは何よりだ。さてと、明日とか試し撃ちすぐにできるかな?

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