まずは宿とり

「…………」

「…………」

「……ねぇ」

「……なんだ?」


 しばらく黙っていたが、ついに耐えられなくなったのかルルが口を開く。


「どうして私たちがあの場にいることがわかったのかな?」


「それはわからない。それより今は、ルルはあれで良かったのか?まだ時間はあるはずだけど?」


 ルルは黙って頷く。


「俺もよく覚えてるよ。あの別邸の庭で泣いてたのがまさか王女殿下だったとはな」


「うん。ああやって遊べたのはあの時含めて三回だけだったね」


「そうだな。本来ならば伯爵家の娘とその従者。片やこの国の王女殿下だ。いくら子供とはいえ話せる機会は少ないからな」


「あの時私たちの後ろを走ってついてきてたのがあんなに立派になってるのを見るとね……」


「ああ、彼女は人の上に立てる存在だ。人の上に人はいないと言うが彼女は例外だ。人の上に立ってなんの隔てもなく導かなきゃならない。昔こっそりと陛下が教えてくれたが今ならわかる。確かにそういう器を持ってるな。だからこれでいい」


「あんな風に街中を走ってきて平民と話せるような?」


「あの行動力がいつか役に立つよ。だがそこに昔の感情は持ち込んじゃいけない。酷な話だが俺たちのことは全て忘れてもらわなきゃいけない。でも俺たちがどうすることも出来ないからな。陛下が悩んだ結果俺にそう伝えたんだろうしな」


「そう……ね」


「やっぱ寂しいか?」


「そりゃあね。一応、感動の再会みたいなものだろうし」


「せめて俺たちに何かしらの立場があれば変わっただろうが……いや、あの言葉通りに意味を取るならこれが正解か」


「それにこうやって平民として、ハンターとして生きてくことを選んだのは私たち自身だもの。過去になにか言っても変わらないわ」


「ははっ、ルルもそんな言い方するんだな」


「なによ」


「なんでもないさ。さて、気も取り直して宿に向かうぞ。一応、なんの縛りもない自由の身だ。王都観光くらい楽しもうぜ」


「そうね。シャリア、悪かったわね」


 そう言ってルルはいつの間にか俺たち二人だけの周りに張っていた光属性魔法の消音結界を解除した。


「お話は終わりましたか?じゃあ道も混んできたのではぐれないようにしてくださいね」


 俺たちが話してる間、シャリアはずっとゆっくりと進んで俺たちがはぐれないようにしてくれていたのだ。

 それにしても流石は王都と言うべきか、いかんせん人が多い。やっぱり中心的な都市には人が集まるのだろう。城塞都市なんかは人口が二万人程居ると聞いたが、ここでは何万人なんだろう。少なくとも他の都市では一万人を超えることがほとんどない。皆都市に出るというのもあるだろうが、一因としてハンター業もあるのだろう。

 ハンターとは魔物を討伐したり、人々を助けてお金を稼ぐ職業だ。おそらく世界で一番自由な職業だが、お金を稼ぐ手段が他人からの依頼に依存しているため、必然的に人の多い地域にハンターは移動する。

 例外としてこの国の南に位置する共和国には迷宮ダンジョンと呼ばれるものがあるらしく、そこは何故かお宝が発掘されたり、魔物の魔石が確実に出るため、それを換金して金を稼ぐのだとか。気になってはいるからいつか行ってみたい。


「着きました。ここですね。値段もお手頃で部屋もいくつか空いてました。ここはどうでしょう?」


 なになに……「冬の胡桃亭」ね……

 一人一泊二食で大銀貨二枚か。なかなかリーズナブルな価格だ。


「うん。いいんじゃない?シャリアの事だからオススメな所に一番に連れてきてくれるでしょ?それを信じるわよ」


 俺も頷いたので、シャリアもここに決めたようだ。市場からは少しだけ離れているが、ハンターギルドなどがある大通りに近いので何するにも便利だろう。


「えっと、私たち二人で二人部屋一つとヤマトさんの一人部屋一つを取りました。同じ階で隣同士なので問題ないですね」


「そうね。でもよくこんな早くから部屋が取れたわね」


「どうやらついさっきまで商隊がここに泊まっていたらしくて一気に部屋が空いたんだそうです。片付けしてる最中だったみたいですけど部屋は取れたので」


「そう……じゃあすぐには入れないのね。ならまずは朝食をどこかで食べましょ。時間があるなら工房とかにも行ってみても良いんだし。ヤマトもそれでいいでしょ?」


「そうだな。屋台から結構美味そうな匂いがしてるからそういうのでも良いな」


「じゃあ決まりですね。色々食べましょう!」


 こうして今日の朝ごはんは屋台飯になったのだ。

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