王城では
時刻は正午過ぎ。場所は王城の執務室の中に二人の男性がいた。
「むう……まだ出てこないのか?」
「ああ。姫殿下は戻られてからは一度も寝室から出てきてはいないな」
「そうか……」
まだ若く、スラッとした見た目の男性と燕尾服を着た同じくらいの歳の男性が二人とも苦い顔で話している。
「笑顔であの子が出ていった先で何があったんだ?」
いくら王城の中とはいえ周りに誰もいないので話し方は結構フランクである。
「近くで隠れて護衛していた者が聞いたようなんだがな、おそらくあれは数年前の事故で亡くなったと言われているフーレン伯爵家の令嬢とその従者じゃないかっていう話があってな」
こんな話し方をしていてもこの国の王と宰相である。二人とも聡明で若くしてこの地位を継いだが、同じ学院で学びその頃からの親友なのであまり気兼ねしない仲なのだ。
「なに!?報告では死んだとなかったか?まさか怨りょ──」
「そんなわけないだろ。いや、死んだとされているが死体が見つからなかったのさ。だから実際のところ生きててもおかしくは無い」
「そうか……でもあの二人とネルハは昔は仲が良かったはず。どうして再会出来たのにあんな風に塞ぎ込む?」
「それに関してもそこに居た護衛からの報告だ。ちなみに、その場にいたのは姫殿下を十年間護衛し、あの二人とも面識はあるからな」
「わかった。で、どんな報告なんだ?」
「あくまでこれは金髪の少女の唇を読んだだけらしいんだが、『もうあの頃の私たちは死んだ。ここにいるのは平民の』……らしい。これ以上は人の影で読めなかったようだな」
「なるほどな。で、その顔はまだ報告があるんだろう?」
「ええ。二人は姫殿下に跪いたようだ。一般的に見ればそれは当然のことだが、彼らに関して言うならばそれはありえないはず」
「確かに。俺は二人にネルハに対しては跪かなくとも良い、っていう触れを出した。それはまだ生きてる。あの子にとっては数少ない親友だからな」
「でも彼らは跪いた。友人としてではなく平民としてだ」
「……お前、さっきの読唇の報告を端折っただろ」
「ああ。こればっかりはお前の責任とも言えるし、伝えたらお前は後悔するだろうからな」
「どういうことだ?」
「こう言っていたそうだ。『殿下も平民と話していることが知れたら、要らぬ誤解を産むことになります』と」
「それが何に繋がる?」
「全く、あなたは普段は聡明なのにこういうこととなるとダメだな。良いか?今、あの二人は死んだことになっている。そして、平民として生きている。ここまではいいか?」
「ああ」
「つまり、立場のほとんどを失っているわけで。加えて、あなたがかつて彼に言った言葉を覚えてるか?」
「言葉……?なんと言ったかな」
「はぁ……。こう言ったんだ。『あの子はいずれ、人の上に立つ存在だ。人を導く器がある。見ただろう?あの子は良くも悪くも行動力があるんだ。だから……ね?頼んだよ』、だ。思い出したか?」
「お前……よく覚えてたな。俺ようやくそう言ったこと思い出したぞ」
「それが宰相だからな。でもこれでわかっただろ?お前は一番重要な部分を言ってないんだよ」
「なんだそれ……っておい、それってまさか……」
「やっと気づいたかバカ王。お前は暗にあの二人に『いつかはネルハから離れろ』って言ったんだよ。だから二人はその言葉に従って姫殿下と縁を切ったんだよ。こう言っちゃ失礼だが仮に二人の立場が伯爵家の令嬢と従者というそのままだったとしても離れただろうな。そもそもそれを伝えたのが当時はまだ王太子だったが将来の王だ。それにその場の雰囲気も加わっただろうがな」
「そんな……俺はただ……」
「友人として支えて欲しかった、か?誰もお前の本心なんてわからねえ。いい大人の俺だってわからんよ。それが子供にわかると思うか?」
「そうか……そうだよな……でもどうにか出来ないのか?」
「残念だが、もう姫殿下と二人の関係修復は不可能だろうよ。もしかしたら既に王都を出ている可能性もある。呼びつけようにも何も理由が無い」
「だよな……クソ」
「先日の龍討伐なんかに参加しててくればちょうどいい理由にはなったが、まだ十四歳では参加は不可能だからな」
「はぁー……ごめんよネルハ……俺はお前のたった二人の親友を奪ってしまった……」
「全く……謝るなら早めにやっといた方が良いぞ。後々面倒なことになりかねないからな」
「わかった……謝ってくる……」
よろよろとフラつきながらもこの国の王は執務室を出て行った。
「ちゃんと伝えなかった私にも責任はありますが……どうか二人と縁を戻して欲しいものです。あの二人の前では姫殿下はちゃんと本心から笑えてましたからね」
そう呟き、宰相は日々の業務を再会するのだった。
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