赤煉龍フィルグレア④

 今度はあまり土煙は立たなかった。地面で直接爆発させなかったからだろうか。それとも龍の耳という空洞で爆発させたからだろうか。


 ダイナマイトもどき自体にも一応爆発の衝撃が奥に行くように多少細工はしたけどあんまり意味はなかったみたいだ。


「お、だいぶ土煙は晴れたな。龍にダメージは……ってまじかよ」


 俺もその光景に驚いていた。

 ダンさんが驚くのも無理はないだろう。


 だって……


「まさか龍が血が吹き出してるなんてな……」


 恐らく鼓膜を破ったのだろう。さっきの粉塵爆発では全くダメージが入らなかったのに耳で爆発させたら血が吹き出すほどのダメージが入るとはな。


 龍も呻き声を上げている。頭を動かしていないあたり脳震盪にもなったのだろう。

 鼓膜の破壊や脳震盪は狙ってやった事だがまさかここまで上手くいくとは俺も思っていなかった。


「ヤマト、ここまでは作戦通り?」

「ええ。耳と脳は近いから。それに龍は知能が高いって聞くし脳も大きいはず。だからあとは耳から脳を破壊出来れば龍討伐完了だな」

「なあヤマト、俺はお前の言ってることがよくわかんないんだが……その脳ってのを壊せば倒せるのか?」


 ダンさんがわけがわからないといった様子で聞いてくる。


「そもそもダンさんはどうして生き物を倒す時首を狙うと思います?」


 俺はあえて頭ではなく首と問う。


「そりゃあ、体の中で一番脆いからだろ?細いところだし。それに体液が大量に飛び出るな」

「そうです。それは間違ってないです。でも、もっと重要な理由があります。ダンさんの言うように首を切ると大量に体液が吹き出しますね?」


 ダンさんは頷いて答える。


「次にその脳ですが……その体液によって動いています。俺達人間だってそれに変わりはありません。そしてその脳は心臓と同様に生きることを司っています。つまり生き物は脳を破壊すれば殺せるわけです」


 ダンさんは首を捻っている。ルルはある程度理解しているようだ。俺の拙い説明で理解するとはやはりルルは天才だな。


「龍も埒外のものとは言え生きてます。つまりは生き物です。生き物ならば脳はあります。だから脳を壊せば龍は殺せます。伝説の如くタイマンで剣振って殺すなんてナンセンス。如何に被害を少なく、かつ確実に殺すか。これが戦術です」


 俺らは別に英雄じゃない。ハンターの名の通り『狩人』だ。故にどんな手を使ってでも敵を狩るのが本懐だ。毒でも罠でもそれこそ地形さえ使って敵を狩る。相手が生き物ならば『狩人』に狩れないものなど存在しない……


 とまあ、中間都市の図書館にあった文言だがまさにその通りだ。

 俺らは

 英雄に

 なぜなら英雄とは

 

「だからこそ英雄ってのに憧れるんだろうな。人間って」


 ちょっと哲学っぽいことを言っていい気分だが、それはどこも同じってことだ。

 地球でも英雄と呼ばれた人は居た。しかし、それは皆伝説の人達で実在した訳では無い。一人殺せば殺人者、十人殺せば殺人鬼、千人殺せば英雄とはよく言ったものだ。


 でもそれは地球での話。ここは異世界だ。目の前の龍を殺せばそれだけで英雄の仲間入り。なんと簡単なことか。


「まあそれも俺達が黒龍を殺すための布石だがな」


 俺はそう呟くと、未だに呻き声を上げる龍の元に駆ける。後ろから何やら声が聞こえてくるが気にしない。


 魔砲を確実に当てるためには最低でも五メールまでの距離に近づかなくてはならないのだ。


 

 龍に近寄るとまずは先程爆破した龍の耳を見に行く。

 そもそも俺がなぜ耳を爆破したのかと言うと、龍の体表は硬い鱗で覆われているが、いくらなんでも口内と耳の中は鱗無いだろ。という予想だからだ。

 口内はさすがに危ないから耳にしたのだけど……


「大当たりだったな。頭蓋骨まで見えてるのかあれ」


 なんか奥に白いものが見える。一回で耳の穴広げて頭蓋骨到達か……なかなか幸先良さそうだ。

 さっきは五メールの距離と言ったけど、やっぱりぎりぎりまで近寄ることにする。魔砲もまだ取り出さないで、銃を構える。既に弾は装填済みだ。


 それにしても……脳震盪状態とはいえ、大人しすぎないか?


 なんとなくそう思いながらも俺は銃を耳の穴に突っ込んで引き金を引く。

 着弾した所から血が飛び散って顔にも付く。

 ペロリと舐めたが……


「うん。鉄の味。さすがに龍の血飲んだら不老不死……なんて伝説は眉唾か」


 そもそも龍というのは魔物の一種だが、魔物では無いとされるもので、数年に一度どこかしらで龍と名のつくものは討伐され、その肉が出回るのだ。というわけで龍の血とか肉とかは人間には無害である。

 むしろ龍の血ってなんか凄い効果の薬になるとかどうとかって聞いた。


 

 当然命中した弾丸は多少龍の肉を抉った。だけど神経が集まってるはずの頭部を撃ったのに叫びもしないってどうなんだ?耳栓してるからわからなかっただけか?


 銃の弾は球形の弾だけ。散弾でもあればもっとダメージはでかかったのかもしれないけどないものねだりだな。いずれ作るとしよう。


 俺はそう考えながら銃を連射していく。かつてバナークさんに鍛えられた連射技術だ。

 セミオートじゃなくて手動だけどそれなりには早いはずだ。


 今は頭蓋骨に存在する耳と脳をつなぐ神経が通る穴を探しているところだ。そこさえ見つければあとはこっちの勝ちなんだけど……


「仕方ない、もう一度爆破するか」


 俺はさっさと諦めた。

 実を言うと、ここまで馬で駆けてきたせいで尻の皮が少し剥けてる。急いでたからルルに言う暇もなくて今も痛いからさっさと終わらせたい。本当ならそんなことは気にしてちゃ居られないんだろうけどな。こんな風にいくらか安心していられるのも今なおこの龍が閉じ込められてる塊に魔法をかけ続けてくれている人達のおかげだ。



 俺はさっきと同じようにダイナマイトもどきを少し増やした十二キールを肉を吹き飛ばすように無理やり突っ込んで設置すると、導火線を持ってダンさんたちの元に戻る。幸い、脳震盪のままなのかあまり動いてはいなかったな。

 予定ではさっきの爆破で脳まで穴が出来てるか、開きかけてるかしてれば魔砲を撃ち込んで終わりだったんだけど……

 これで開いてくれれば完璧だ。むしろ火薬がもう無いから開いてくれないと困る。


 俺は再度上手くいくことを願い、導火線に着火したのだった。

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