不思議な噂

 この中間都市アールムのハンターギルドは基本いつも騒がしい。

 鉱山と草原に巨大な森、それにこの辺り一帯に存在する山脈。


 これだけでこの国の南部統一域に存在するハンターギルドの中心的都市になれるのだ。

 鉱山には鉱夫が、草原や森にはハンターが獲物とする魔物などが多く生息し、山脈にはその全てが揃っている。


 気候も安定していて人が住むには最適な都市と言っても過言では無いだろう。ただ一つ問題があるとするならばこの都市に来るまでの交通手段になるがこの際それは関係ないだろう。


 他にも似たような都市は王都含めいくつもある。だが、ハンターにとって過ごしやすく、かつ稼ぎやすい都市は南部統一域にはここの他存在しない。


 湾岸都市や森林都市、貿易都市や城塞都市、魔法都市に学園都市などこの国にはいくつも存在する中で完全にハンターと住民が共生出来ている街はここ以外無く、ハンターになったならばまずここに行け、と言われるほどに有名なのである。


 

 まあそんなわけでこの街のハンターギルドはいつでも盛況なのである。もちろん真面目なハンターは朝早くから依頼をしていくが、一部のハンターは朝っぱらから酒飲んでいるただの酔っ払っいだったりする。


 俺らはそんな酔っ払っい連中と関わり合いたくないから日帰りの場合は基本的には朝早くから依頼に出て、昼過ぎには帰還し、その後は装備の整備や買い物と言ったことに当てている。


 それはともかく、そんなロクでなしもいるハンター連中だが、少なくとも情報を見る目は確かなのが多い。情報一つで大きな稼ぎが生まれることもあれば大損することだってある。そこは自分の感性次第だろう。

 それが噂だったとしてもそれぞれが信用する情報筋からの情報ならばまずはある程度信用する程には、だが。



 まあそんな話が本当にあるのかと聞かれたらそうそう無いのだけど。

 一つの街で噂になる程度ならばよくある事だが複数の街で同時に噂が立つことはそうあまり無い。


 しかし、俺たちが訪れた中間都市アールムのハンターギルドであとある噂で賑わっていたのだった……






「ん?何だかいつもに増して賑やかな気がするんだけど気のせいかな?」


 普段からここは賑やかだけど……確かにこの時間にしては人は多い。


 現在時刻は午前九時。普通のハンターならば既に依頼に出発している時間だ。

 そんな時間に来た俺たちは何をやっていたのかって?


 あの後、あれと同じインクをもう一度作らされたよ……


 お陰様で寝不足と疲れで朝なのにヘトヘトです。


「すいません、今日なにかあったんですか?」


 そう聞いたのはこの街に来て何度かギルドに出入りしているうちに顔見知りになった受付嬢の人。


 気さくな人でこのギルドで人気の受付嬢だそうだ。


「あ、ヤマトさんたちでしたか。おはようございます。今日は遅いんですね……っと、なんでこんなに賑わっているのかでしたね」


「はい。いつもより人は多いし……こんな時間なのにまだ大勢いるので」


「実は……」


 小声になってその人は教えてくれたのだけど、どうやらこの街の近くに龍の存在が確認されたらしい。


『……っ!?』


 たった一言で教えられたその情報に俺とルルは戸惑う。


 『龍』、この世界に存在する魔物の頂点に君臨し、この世の生存競争の頂点にも君臨する正真正銘のバケモノ。


 今までに幾度か討伐され、討伐した者は英雄として讃えられてきたもの。


 しかし、俺とルルにとってはただの復讐相手でありどんな手段を使ってでも殺したい相手の種族である。


「そ、それはどこで確認されたんですか?」


 ルルが戸惑いながらも問う。


「えーっと、この街の南門から出てすぐに西に向かった先に大きな森があるんです。そこの奥に十数時間程進んだところにかなり開けた土地があったようで、そこに居たそうです。赤黒い鱗を持った龍が。大きな翼が確認出来たようですから間違い無いそうです」


 赤黒い鱗か。俺が持っている鱗は漆黒だ。ならばそこにいるのは黒龍では無いのだろう。


「赤黒い……鱗……」


 そう呟いたのは俺でもルルでも無い。ましてやこのギルドにいた連中でも無い。


「お父さん……お母さん……」


 シャリアだ。


「ちょっ、シャリア!?どうしたのいきなり!」


「うっ……すみません……」



……………


…………………


…………………………



「すみません。もう……大丈夫です」


 シャリアは声を押し殺しながら少しの間泣いた。

 ギルドにいた人たちには喧騒で気付かれなかったようだが、俺とルル、受付嬢の人はその様子を見て驚く。


 シャリアにもどうやら過去に何かあったようだ……



「あ、あの!皆さんに伝えなきゃいけないことがあるんです!」


 何やら気まずい空気を払うように受付嬢さんが盛り上げるように声を張った。いったいどうしたのだろう?

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