三人お手製魔法陣
「シャリア、これで良いかしら?」
ルルが手に持っているのは昨日シャリアが出したような魔法陣だ。ただ、昨日の物とは少し違うようだ。
「はい。『
そう褒められたルルは「えっへん」と胸を張った。少し揺れるくらいには最近育ってきているので個人的にはガン見したいが、今はそっと目をそらす。
「当たり前だね。魔法書が書ければあとは形を少しだけ変えて書き写すだけだもの。でも一年近くぶりにしては上手く出来たわね」
ルルも嬉しそうだ。あえて姿は見ないようにしてるが、声だけでも分かる。
「でも、普段から言語魔法に慣れてるから改めて魔法書に書き起すとここまで長くなるのね。高くつくのも当然だわ」
「そうですね。魔法書はその魔法属性に適正が無くともその魔法を使えることに強みがあります。魔法陣も同様ですね。それに、言語魔法では無意識に行っている工程すらも書き起こさなければならないのは面倒な点ですから」
無意識に行っている工程とはなんぞや?ルルはそんなことをいつもやっていたのか?
俺も魔法を使ってルルの助けになれたら……と思ってたけどそんなことをしなければならないなんて知らなかった。その工程がどんなものかは知らないが、おそらく大変なのだろう。
「全くよ。魔法の構築速度から効果範囲、距離指定。構築後の発動のタイミングとか色々あるけど魔法書はそこの自由が効かないから面倒ね」
つまり、一度設定したらその通りにしか発動しないと……まるでプログラムだな。実際そうなのだろうけど。
だけど言語魔法は自由が効いて魔法陣や魔法書の魔法は自由が効かないのか。……もう少し調べたら面白いことが出来そうだな。
「ですけど、この魔法陣はとても良く出来てます。構築も早くて発動も約半秒後、光の届く範囲はだいたい十五メールですね。じゃあヤマトさん、今作ったインクでこれを上書きして下さい。あ、もちろん私も手伝いますよ!」
ルルが書いた魔法陣はただの市販のインクで書いたもののようだ。後から聞いた話だが、この状態でも一応魔法陣は発動するらしい。しかし、まともな効果は望めないほどに弱体化するのだという。
その弱体化を防ぐために俺とシャリアか作ったインクで上書きするわけだ。さすがに下書き無しで魔法陣を書くのは無謀なようだ。
───三十分後
「ふー、ようやく書き終わった……肩痛いな……」
俺は凝り固まった肩を回す。ポキポキ音がなっているが大丈夫だろう。
文字が細かく、書いたことが無いものばかりだから慎重にやっていたらこうなったのだ。
「お疲れ様です。じゃあこれを使って一つ実験をしましょうか」
シャリアはポンと手を叩き、笑顔でそう言った。
実験?
俺はわけが分からないのでシャリアの様子を見ていたのだが、彼女は自分の荷物から小さな板と何やら赤やら青やら色のついた細い糸を取り出した。
彼女は赤い糸を一セール程切って板の表面に引っ掛けた。板には細かな模様が彫ってあって、糸が引っ掛けられるようになっていた。
そして今度は青い糸も同じように切って板に引っ掛けた。
ますますわけが分からなくなってきたのでシャリアに聞こうとするも、答えはすぐに分かった。
シャリアは糸のもう片方の端を魔法陣を構成する線に糊で貼り付けたのだ。ちょうど円の端と端に貼り付けてある。
「これは……導線か?」
そう聞くと彼女は首肯した。
「はい。これは簡単に言えば魔法陣の魔法を本体からではなく別の場所で発動するための道具です。この木で出来た起動板は実際どんな素材でも良いんですが、この魔力導線はちゃんとした素材で作らなきゃいけないんです。ですけどこれは一度作れば魔力による劣化はしないのでかなり長期間使うことが出来るので。また、魔力の通りが良ければ良いほど起動板での魔法性能が上昇するんです」
「その導線に使う素材にはどんなのがあるんだ?」
俺は色分けされた糸がただの区別用だと思っていたが、それが何かしらの素材の色ならば今考えている面白い事に使えるかもしれないのだ。
「えっと、この糸は赤が赤魔鉱の粉末と私の血液、青がラピスラズリの粉末と同じく私の血液です」
「その……血液はなんの意味を成しているんだ?」
「これは単純に魔力の通りを良くするためなんですよ。昨日ヤマトさんにやってもらったように血液に魔力が混じっていることは分かったと思うんですが、魔力を別のものに通す時はただの素材そのものだけじゃなくて私の血液、つまり私自身の魔力が混じっている物をを通した方が効率が良いんです。もちろん、赤魔鉱やラピスラズリと言った鉱石も魔力を通しやすくする特徴があるんですけどね」
どうやらこの世界の鉱石には魔力を通しやすくする不思議な特徴があるらしい。金や銀などは価値は当然あるものの、魔鉱石とよばれる鉱石類の価値はその比では無いのだとか。
俺はその事実に興味を持ちながらもシャリアがやろうとしていることにルルと二人で注目するのだった。
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