ふにゃふにゃ?
「ごめん……ヤマト……シャリア……さすがに……眠いわ……おやすみ……」
そう言ってルルはベッドに倒れ込む。
時刻は日を跨ぐ直前だ。
メリーさんに付き合って延々と続く話を彼女は聞き続けた。お酒も飲まされそうになったがそこはちゃんと断っていた。
だけど今日はずいぶん彼女は頑張っていたからな。もう死体のように眠っている。多分明日には復活しているだろうが。
「それじゃあ私も寝ますね。ヤマトさん、おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
俺はルルとシャリアが寝る部屋から出る。
この部屋はベッドが二つしかないからな。さっきまではルルは何故か必死で俺と一緒に寝ようとしていたが。
俺はさっさと部屋の外に出てリビングのソファに横になる。
「だいぶ食ったからな……ハンターになってからこんなに食ったのは久々だな」
俺の記憶が正しければ最後にこんな豪華な食事をしたのは貿易都市で過ごし始めて半年位の頃だったはずだ。そその時はダンさん達も居たから実際はそこまで食べられなかったが。
………寝れない。
どうしても寝れない。お腹が一杯だからか?それとも実はそこまで疲れてなかったとか?
仮説はいくらでも出てくるが今はとにかく寝たいのだ。
明日は街の鍛冶屋などの工房に行って剛体蜥蜴の鱗を使った防具などを作ってもらう予定なのだ。
それに剛体蜥蜴の魔石をルルの杖にはめ込む予定でもある。
明日はやることが沢山あるから意地でも寝たいのだが……
「寝れない……」
まるでカフェインを大量に摂った時のように目が冴えて全く眠くならない。
俺は起き上がると魔法袋からバナークさんの本といくつかの小瓶、火薬と小麦粉などを取り出して窓際に並べる。
月明かりが明るくてランタンなどを点ける必要が無い。
今から作るのは以前使った小麦粉玉の改良品だ。
本来の使い方と違ってかなりの攻撃力を得る方法が分かったのでちょっと面白い事を思いついたのだ。
「まずはこの火薬をすり潰して細かくする……」
貿易都市にいた頃に買っていた乳鉢と乳棒だ。
これは俺の持つスキルである〈調合作成〉を活かすためだ。
"調合"と付いてるのだから調合するための道具が必要だろうと思って買っておいたのだ。小瓶もその一種である。ちなみに天秤も買おうと思ったのだがさすがに高くて買えなかったのだ。
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ……
コンコンコンコン……
すり潰し、さらに粉状になった火薬を小瓶の中に入れる。
次は小麦粉だ。
小麦粉も火薬と同じくらいの量を小瓶の入れておく。
同じようなことを数回繰り返し、火薬と小麦粉入りの小瓶のセットを複数作る。
今度は布と糊を取り出す。
その布を直径三セール程度の木の半球の表面に沿うように張り、糊で固定する。
この糊も貿易都市で購入した特殊な糊で布を固めることに特化したものだ。
「これであとは固まるまで待てば……」
「何してるんですか?」
「うわっ!」
いきなり後ろから掛けられた声に俺は変な声を上げてしまった。
「大丈夫ですか?」
「なんだ……シャリアか。どうしたんだ?」
「私はちょっと水を飲みにです。ヤマトさんは……眠れないんですか?」
時間を見ると彼女たちが眠ってから一時間程度経っている。結構集中していたようだ。
「うん。眠れなくてね。ちょっと暇つぶしに秘密兵器作りしてたんだ」
「秘密……兵器ですか?」
シャリアは俺の目の前にある小瓶や布を見て聞く。
「まだ作ってる最中でしかも試作品だから成功するかも分からないけどね」
「そうなんですね……よく分からないですけどなんか凄そうです」
そう言われて何だかむず痒くなった。
作ろうとしてるのはずいぶんと簡単なものだからな……
「ところで、ヤマトさんの髪ってサラサラですよね。それに長くて綺麗です」
俺の髪の毛?
確かに伸ばしているし最近は肩甲骨の中程辺りまで来ている。
毎朝ルルが髪を梳いてくれている。俺もルルの髪を梳いてあげているのだ。
「羨ましいです。ツヤツヤした黒髪が月明かりを反射しててとても綺麗ですよ」
「ありがとうな。ルルに頼まれて伸ばしてるけどそう言って貰えるなら伸ばしてたかいもあったかな」
「そうですよ。……ヤマトさん、ちょっとお願いがあるんですけど良いですか?」
「ん?良いけど、何をすればいいのかな?」
するとシャリアはモジモジしながら小さな声で言ってきた。
「あの……私の髪も梳いて貰っていいですか?」
「なんだ、そんなことなら幾らでもやってあげるよ。──ちょっと待ってな」
俺は目の前の小瓶やらを仕舞い、自分の魔法袋の中を探る。
そして一つブラシを取り出す。
「それじゃあ始めるよ?」
「は、はい。お手柔らかにお願いします……」
「そんなに構えなくていいよ。ゆったりしてて」
「うぅ……頑張ります……」
なんてかわいいんだろう。
妹とかがいるとこんななのか?日本にいた頃は俺は一人っ子だったからあまりそこら辺が分からない。
俺はそんなことを考えながら彼女の髪にブラシを滑らせる。
彼女はルルと同じように髪が長い。ルルは今は腰くらいまであるがシャリアは背中の中程辺りまでだ。
でもルルのブラッシングで慣れている俺はそのくらいの長さであればお手の物だ。なんせ七歳の頃からやっていたからね。もう六年目だ。
「ふあああぁぁぁ〜」
なんか変な声を上げているが……時々ルルも似たような声を出すからおそらく心地いいのだと思う。
シャリアの髪も本当にサラサラしてて触り心地が良い。
髪の色もあって、まるで純白の絹糸のようでとても美しい。
「どうだ?気持ちいいか?」
「はいぃ〜とっても気持ちいいですぅ……」
髪を梳いていけばいくほどシャリアがふにゃふにゃになって行くので、彼女が完全にふにゃふにゃになった所でブラッシングを止める。
「これ以上やると髪を痛めちゃうからな。これで終わりだ」
「あ、ありがとうございますぅ〜」
シャリアはしばらくふにゃふにゃになりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます