白狼少女
「この馬車って中間都市アールム行きですよね?」
いきなり馬車に飛び乗ってきた少女は開口一番そう言った。
「え、えっと……確かにこれは中間都市アールムに行くけど……」
最初に復活したのはルルだった。
ルルもびっくりしながら答えているが。
「よかった〜!寝坊しちゃって乗り遅れるかと思ったんです!」
どうやらこの少女は中間都市に行きたかったようだが寝坊して馬車に乗り遅れかけた、と……
「そうかそうか、ならば乗っていけば良いぞ。人が増えるのはいい事じゃからな。じゃがもう少し大人しく乗って欲しかったがの」
御者のお爺さんは笑いながらそう言った。
「あはは……すみません」
「ところで、あなたはなんて言うの?」
ルルが彼女の名前を聞く。こちらもまだ名乗ってないのだけどね。
「あ、私はシャリアです。シャリア=リーネルと言います。ハンターで今は緑タグです。これからよろしくお願いしますね」
彼女は尻尾をゆっくりと揺らしながら笑顔で答えてくれた。
緑タグってことは俺らよりも一個上のタグなのか。
「私はルルよ。ハンターで今は黄色タグだけどあと少しで緑に上がるわ」
「俺はヤマトだ。ルルとコンビを組んでやってる。俺も黄色タグだな」
俺はルルと一緒に自己紹介をする。 だが、俺の現在の思考はたった一つのことで占められていた。
そう、シャリアの見た目である。
彼女は初めて見るが、獣人という種族なのだろう。
しかし、予想していたのとはかなり違った。
まさか、人間の体に獣耳と尻尾を付けた存在だとは全く思ってもいなかったのだ。
かつて日本にいた頃は結構好きなジャンルだった獣耳っ娘だがそれがリアルに目の前にいるというのはなかなか感慨深い。
正直、あの尻尾をモフモフしたいが今は我慢だ。知り合ってからまだ十分と経ってないのにそんなことしたら間違いなく大変なことになる。
だけどあの時折ピコピコと動くあの耳、あれも触ってみたい……
触っちゃダメって分かってるけど触りたくなるのは何故だろう……
「ヤマトさんとルルちゃんですね!これからよろしくお願いします!」
彼女は尻尾をブンブン振ってそう言った。
「緑タグってことは私たちよりも一つ上なのね」
「ということは私、お姉ちゃんですね!」
「え、どうして?」
「私、十四歳ですしタグでも上なのでお手伝い出来ますから!」
タグの色がある程度の年齢の指標にはなるのは有名だ。まあ実際はその限りではない。
お世話したいのかな?でも確かに俺たちよりも歳が一つ上だからお姉ちゃんではある。
「そ、そう……本当にお姉ちゃんだったのね……」
ルルはシャリアの年齢を聞いて納得はした。
ルルは最近身長が150セールに届きそうになっている。同年代なら普通の身長なので彼女は同い年だと思っていたのだろう。
「ところで、あなたはハンターで何をやっているの?」
ルルはシャリアがハンターをやっていく上で何を得物にしているかを聞いている。
かつてルルはこの質問の意味を理解出来ていなかったのだが。
「私は武器は短剣を使ってて……今までに組んだ人たちとは
「そう、斥候ね……」
俺たちは今までに組んだ人たちはダンさん達くらいで、その時はベルさんがやってくれていた。
それからも俺たちはハンターについて色々話したり、どんな依頼を受けたかなどちょっとした自慢大会も行われた。
また、シャリアは自分についても教えてくれた。
シャリアは獣人の狼族と呼ばれる一族で、なかでも特殊な白狼族の末裔らしい。親が居らず、猟師である祖父に育てられたため彼女のスキルも似たようなものになったという。
ハンターになった理由としては祖父に憧れてだとか。
でも会ってすぐの俺たちにここまで話しても良かったのだろうか……
「へぇー、お爺さんに憧れて……でもそんなこと会ったばかりの私たちに話して良かったの?」
ルルも俺と全く同じことを考えていたらしい。
なんか嬉しいのは俺だけなのかな?
「はい、ですが一つお願いがあるんです……」
お願い?
俺らに出来ることならなんでもするのだが……
「なに?とりあえず言ってみて、出来そうならやってあげるわ」
あれ?ルルってこんなに上から目線っぽかったっけ?
何故だろう……?
「その……」
「なによ、もったいぶらないで言ってみて」
ルルがやっぱり上から目線で急かす。
横で見てるとなんかルルがシャリアを虐めてるように見えてくるんだよな……
ルルは足を組んでてまるで女王様だ。
「えっと、あの……私とパーティーを組んでもらえないでしょうか?」
「良いわよ」
ルルは即答する。
まあ分かってはいたんだけどね。
実はこの少し前、シャリアが見ていないうちにルルと話し合って決めていたことがあった。
それがシャリアに俺たちと一緒に組んでもらえないか、という提案だった。
仲間は増やしたかったし、何より俺たちは二人とも遠距離職にあたる。となると、今後それなりにキツくなって行くのは明白だった。だから斥候のシャリアが現れてくれたのは渡りに船だったわけだ。
「あ、あのそんな……即答だなんて」
「良いのよ。元より、街に着いたら誘う予定だったんだもの。私たちも新しい仲間が増えて嬉しいわ。よろしくね、シャリア」
「ありがとうございます!頑張りますね!これからよろしくお願いします!」
明るい雰囲気のまま馬車はようやく中間都市アールムに到着したのだった。
こうして、元気な白狼少女シャリア=リーネルが俺たちの仲間に加わったのだった。
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