中間都市アールム
中間都市アールムは川に面した貿易都市ナラルラとさらに北にある城塞都市バルンガムとのちょうど中間にある都市だ。
交通路はどちらの街からも陸路しか存在せず、川で繋がっている貿易都市と城塞都市とは交易をするにはあまり旨みの無い相手でもある。
その理由はこの近辺のマール川は大きく蛇行していることにある。
中間都市アールムは小さな山脈の麓にあり、マール川はその山脈を迂回するように流れている。
しかし、この近辺では城塞都市、貿易都市共に最重要都市として認識されている。
その理由は何か。
理由は簡単だ。
ここ中間都市アールムは北部統一域の鉱山都市に次ぐ様々な鉱石の産出量を誇り、東西南北それぞれの統一域の境界線が交わる中央部。つまり王都よりも南に当たる部分の鉱石供給の大半を担う大鉱山なのだ。
そして、この街は魔道具がよく使われる街としても有名である。あくまで使用である。制作は他にちゃんと街が存在している。
このラナンサス王国は魔法技術が発展していることで有名だがその技術をふんだんに使って鉱石採掘を行っているとの事である。
とまあ、ここまでが御者さんに聞いた中間都市アールムの情報だ。
貿易都市では実はほとんど魔道具は使われていなかったからこの世界に来てからあまり魔道具を見た事がなかったりする。
伯爵家にも魔道具はあったがせいぜい明かりを灯す程度のものでこの国の魔法技術を体現しているわけでは無いようだ。
話を聞いているうちにいつの間にか街の中に入っていた。
「あれ、もうついてたんだね。──お爺さん、ありがとうね。これお代だよ」
ルルが代表して乗車賃を御者のお爺さんに渡す。
「はい、確かに。ありがとうね。また縁があれば乗っておくれ」
そう言って馬車を降りた俺たちを置いて馬車は去って行った。
「さて、ギルドと宿探しどっちからやる?」
ルルはこちらを向いて言った。
「まずは宿じゃないか?ギルドは明日でも良いし」
「私も賛成です。まずは宿が無いと」
ハンターの間にはこんな諺がある『三時を逃した者には屋根が無い』これは三時を過ぎてしまえば宿も埋まり、寝床が無いことを示している。それを避けるためにも二人が宿探しに賛成したから早急に宿探しをすることになった。
しかし、夕方に宿を探すとなるとそうそう空いてる所は見つからない。
街の入り口近くの宿屋は全滅。
空いてても高くて泊まれなかったりする。
実を言うと未だに魔法袋の奥に大量の財産が丸々残っているがそれを使うつもりは無いし、シャリアにもその事は話していない。
だから表向き俺らは金貨を数十枚分しか持っていない、この歳にしてはお金を持っているハンターだ。ちなみにこれは大半がかつてのキュアル草の依頼と剛体蜥蜴の討伐で稼いだものだ。
ここ中間都市アールムは鉱山を主体とした商業都市だ。あちこちに酒場があり、一般的な雑貨屋にはツルハシなども売られ、鉱夫のための街と言っても過言じゃないほどである。さらに鉱石を仕入れに来る商人は多い。そのため宿屋そのものはかなり多く、泊まる所には困らない……はずだった。
「まさかほとんど満室だったなんてね……」
時刻は午後五時。時間帯的には宿の部屋は多くが埋まっているだろう。諺によるならまず屋根はない。
だけどまさかほとんど満室だったなんてのは予想してなかった。
「この大通り沿いのは全部ダメでした。少し裏に入ればまだ空いてる所はあるでしょうが……」
「俺としてはあんまり裏には入りたく無いんだよな。何があるか分からない」
「そうよね……貿易都市の時はダンさん達に案内して貰えたけど、今は居ないし……」
「ちょっと高い所なら空いてましたけどさすがにあんな所はそもそも門前払いですし……」
俺たちは街の中心の辺りにある公園で座りながら相談する。
宿探しの途中で聞いたところによると、新しい鉱脈が発見されてそこから大量の鉱石が採掘されてそれを仕入れるために多くの商人が集まっているのだとか。
そしてその商人の護衛のハンターも加わって、この街の人数は普段の二倍近いらしい。
「あんた達、そんな所で何してるんだい?この時間ならもう飯時だろうに」
後ろからの声に振り返るとそこには、若い女性が立っていた。
「あ、あの!私たちこの街に着くのが遅くてどこも宿が空いてなくていま困ってるんです。良ければこの辺りで空いてそうな宿を教えて貰えませんか?」
こういうことはルルの得意分野だ。お嬢様とは思えない振る舞いで好印象を与えられる。
「おや、宿が無いのかい?ならばうちに来な。ちょっと手伝ってもらいたいことはあるけどね」
ずいぶんとサバサバした人だ。ケラケラと笑いながら「ついて来な」と言って先を行く。
俺たちは頷き合うとその女性について行く。何はともあれまずは宿が手に入るのだ。
話が上手すぎる気がするが……
「ここだよ。『小鳩の翼亭』だ。あたしの店だよ。まだ新しくて綺麗だろ?」
「は、はい。お店……始めたばかりなんですか?」
「そうだよ、父親から継いだ店なんだけどね。店自体がボロいから建て直したんだ。ようやく再開さ」
なるほど、建て直したばかりだからこんなに綺麗と。
正直、新しくて不安になったのだがそれなら大丈夫だろう。
「それで……手伝ってもらいたいことだけどねぇ──この店のお客になっておくれ」
お客?そんなことで良いのか?
「良いんだよ。まずはここに泊まってみておくれ。まずはそれからだよ。あとで色々話そうかね」
そこで女性はさらに笑顔になり言った。
「さて、まずはようこそ中間都市アールムへ。あたしはメリーだ。ここをこの街の拠点にして貰えると嬉しいよ」
運が良いのか善意の塊みたいな人に会うことができた。
その後俺たちはその人の提案に乗り、この街にいる間の拠点にすることに満場一致で決めたのだった。
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