第36話決戦! コルク栓vsようじょ!【前編:ウィング式とソムリエナイフ】

しゃせー……おっ、石黒さん?」

「こんばんわなのです、佐藤さん!」


 リカーショップOSIROへ飛び込んだ気合十分な寧子さん。レジで店番をしていた佐藤へ挨拶はほどほどにし、店の奥にあるワインコーナーへと強歩で向かって行く。


 相変わらずずらりと並んだワイン棚であった。圧巻であった。さすがは直輸入も手掛けているOSIROのワイン売場であった。しかし今日の目的はワインではない。武器ワインオープナーの獲得である!


 寧子はフランスやイタリアワインの誘惑に決して足を止めようとはしなかった。しかしアメリカの重厚なワインボトルが一瞬寧子の脚を止めさせようとする。更にはドイツワインの鮮やかなラベルが連続として飛び込んでくる。激しい攻撃の数々だった。一歩進めば、魅惑のワイン達が次々と現れ、足を止めさせようとする。財布を開けさせようとする。だが寧子は耐えた。耐えて、耐えて、耐え続け、一歩を踏み出してゆく。

 小さな戦士は、ワインが放つ魅了テンプテーションを潜り切った。そして売場の最奥にある、グッズコーナーの前に立ったのである。



 様々な形状のグラス。バケツのようななにか。なんだかキャップみたいなもの。ここにある道具の用途は今の寧子では殆ど理解できない。しかし今日のところはそれでいい。今、彼女が手にすべき道具。唯一理解ができ、手にするべきものそれは――



(【ウィング式】と【ソムリエナイフ】だけですか。セルフプリング式はないのですね)



 ブリスターパッケージ内包されて、吊るされていたワインオープナーはその二種類であった。

ならば選ぶものはただ一つ。


「オープナー持ってなかったのか?」


 と、ウィング式を手に取った寧子へ、佐藤が声を掛けてきた。

 今更感があるような無いような。ちょっと恥ずかしいような気がした寧子であった。


「え、ええ、まぁ……」

「石黒さんだから言うけどさ、ソレあんまりお勧めしないぜ」

「そうなのですかぁ!?」


 佐藤の衝撃的な発言に、寧子は思わず声を上げた。


「お、おう。それ一見簡単そうなんだけど、スクリューを打つところを間違えるとただコルクをほじっちゃうだけなんだ。レバーのところも結構もろくて、壊れやすいし。まぁ樹脂製のコルクだったら問題ないんだろうけどさ」

「じゃあ、ボルドーのワインだったら?」

「良いやつ?」

「は、はいなのです!」

「じゃあ、まぁちゃんとしたコルクか、少なくとも圧縮式のコルクだろうな。コルクが固くなってたりしてたらウィング式だと抜きずらいぜ?」



 これは神の啓示ではないかと思った。酒の神バッカスの導きであるように感じられた。技術は無い。自信も無い。しかし神はこうおっしゃったような気がした。


【石黒寧子よ! 選ばれし戦士ワインラバーよ、剣を抜け! 君だけのエクスカリバーを!】と。



 ウィング式をそっと戻した。そしてすぐ隣のブリスターパッケージに内包されている【ソムリエナイフ】を見やる。

値段は千円ちょっとで、ウィング式と大差がない。予算の問題は全然OK

何よりも色が気に入った。


 漆黒。ブラック。シュヴァルツ。かつてのHN《ハンドルネーム》がシュヴァルツカッツであった寧子にとって、これこそ彼女が手にすべきエクスカリバー!


「これが今の私にぴったりなエクスカリバーですっ!」


 思わずそう叫んで、黒いソムリエナイフを佐藤へ差し出した寧子さん。

素に戻り、とんでもないことを叫んでいたと後悔し、赤面したのはこの五秒後のことである。

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