第35話ようじょよ手にせよ! 今の君にぴったりなワインオープナーを! 【色んなワインオープナー】

 戦うには武器が必要である。残念ながら今の寧子に徒手空拳で、ワインを封じるコルク栓を開ける術は無い。そもそも相手にもされない。

だからこそ武器が、敢然とコルクを抜栓するための、武器どうぐが今の彼女には必要不可欠なのである。


 しかし中国の古い兵法書にもある通り、「彼を知り己を知れば、うんたらかんたら(実はその先を忘れたのです……by寧子)」とある。つまり、相手を知らなければ戦うことはできない。

ただ闇雲に突っこむのは愚の骨頂! 地雷の存在を知らずに、地雷原へ突っこむことと大差がない。だからこそ、寧子はまず、相手を知ることから始めたのである!  


 バイト代を叩いて買ったタブレットで検索したところ、瓶口を覆うバリアは【キャップシール】という名称であると判明した。


 キャップシールの役目は「瓶口の保護や衛生面の確保」は基より、「蔵元から出荷証明」という重要な任を担っているのであった。

 コルク栓を打ちこみ、最後に被せられるこのバリアは『私たちが責任を持って瓶詰めして、出荷したモノですよ!』とのメッセージが込められているとのこと。


 言うならば、これは第一の関門。魔王を守る側近の暗黒騎士だ。奴は素手では到底倒せない。引っ張っても抜けやしない。掴んでもくるくると空回りするだけ。打撃耐性はSクラスといって差し支えなかった。


 しかし奴には決定的な弱点がある。奴は斬撃耐性が皆無なのだ!


(沙都子ちゃんは、キャップシールをソムリエナイフの刃で切っていたです! 松方さんも! なら刃物があれば無問題なのです!)


 第一の難関、暗黒騎士キャップシールの攻略は目途が立った。だが、戦いはここからが本番。ここで負けてしまえば、打ち切り漫画と一緒の展開になってしまう。


 麗しの、愛しのワインを封じる最後の難関――【コルク栓】


 奴を倒さねば、美味しいワインに有りつくことは一生できない。

ここで屈してしまえばこれから先、コルク栓に怯えるがため、ワインを心の底から楽しむことができなくなってしまう。


 コルクが開けられらないからキャップにする。コルクがめんどくさいからパックにする。失敗が怖いからコルクを避ける。

その考えはワインの知る数多の可能性を自ら放棄することに他ならない。



 それだけは嫌であった。欲しいワインを手にし、その味に感動して、人生を豊かにする。ならばコルク栓などに屈する訳には行かない。ここを超えてこそ、寧子は更なる高みへ乗ることができるのだ!


 しかしコルク栓は強力だ。

ぴっちりと瓶口に収まり、指をひっかける隙間さえない。

やはり打撃耐性はSクラスか。完全打撃耐性を持っているのか!?


 ならばあれを使うしかない。

 隙が無いならば作ってしまえ。穴をあけてしまえ。


 それは無限に続く螺旋の力。

コルクを穿ち、削るその力を人はこう呼ぶ――スクリューと!


 相手の能力、そして自分が用意すべき攻撃内容は分かった。

ならばいよいよ今の自分にピッタリな、武器を探すべき。


 寧子はタブレットを前にやや考え込んで、そして検索エンジンへ「ワインを開ける 道具」と検索を掛けた。


 こんな検索ワードでも大丈夫かと当初は不安だった。

しかしインターネットという大宇宙であっても、心優しい人はたくさんいた。

叡智を持つ数多の賢者たちは、つたない寧子の祝詞から真意を読み取り、啓示を下してくださったのである!


 ワインを開ける道具。寧子が手にすべき武器――その名は【ワインオープナー】

そして寧子へいくつかの偉大な武具が提示された。



一つ! 【簡易ワインオープナー】 取っ手とスクリューのみで構成されたT字型の実に単純な武器であった。キャップシールは別の道具で切り、現れたコルクへスクリューを突き刺す。そして腕力のみで抜く、闘士ファイター向けの装備だ。だが寧子の職業は、きっと闘士じゃない。腕力も自身が無い。よって却下!



二つ! 【挟み抜き式ワインオープナー】 寧子は二つ目にして螺旋の力に頼らない、別の可能性を目の当たりにした。二本の鋭い刃と、簡易と同じく取っ手で構成されたシンプルな形状。アルファベットのHの形に近い。

 使い方は二本の刃をコルク栓と瓶口の間に差し込む。そして間に挟んだコルク栓を、これもまた腕力のみで引き抜くといった武器であった。

 螺旋スクリューの力は使わずとも、最後は結局腕力頼り。よって却下!



三つ! 【ウィング式ワインオープナー】 形状を一言で表すならば、二枚の翼が生えた鐘である。キャップシールを剥したワインの瓶口へ鐘のようにみえる本体カバーを被せる。天辺にある、ねじまきのような栓抜き型の取っ手を時計回りに回転させる。

 するとスクリューがコルクへ沈んで行き、同時に翼のようにみえるレバーが上へ動き出す。それはさながらバンザイ。螺旋の降臨を喜ぶ、民の姿のようだ。


 しかしこれで終わりではない。螺旋と人の力が合わさった時、最後の扉が開く!


 コルクに穿たれたスクリュー。V字に持ち上がった二本のレバー。

この二本のレバーを最後は少ない腕力で下げれば、スクリューが垂直に持ち上がる。これにてコルク抜栓は完了。螺旋と人の力がなす、御業である!



(このウィング式は簡単そうでいいですねぇ)


 第一候補はウィング式となった。だがしかし! まだ数多の武器が寧子に提示され続ける。


 

四つ! 【セルフプリング式ワインオープナー】


 スクリューと横に突き出たレバー、といったこれまでとは趣が明らかに違うワインオープナーだった。


 使い方は、まずウィング式のようにスクリューを内蔵した本体を瓶口へかぶせる。

天辺にある長いレバーを時計回りに回せばコルクにスクリューが打たれてゆく。

そしてそのまま回し続ければ、コルクが持ち上がるという代物である。


 これは凄く簡単そうだった。人の業が螺旋の力を御した成果だ。

しかし値段がウィング式に比べると明らかに高そうだった。

よって第二候補へ。



 そして――五つ目に至り、寧子はあの武器との邂逅を果たす。


 第一の難関、暗黒騎士キャップシールを切り捨て、魔王コルクへ螺旋スクリューの力を時間差無しで振るえる武器(どうぐ)

これ一本さえあれば、他に道具が入り込む余地は無い。これ一本さえあれば、コルク栓に封じられたワインだって怖くない。


数多の戦士ソムリエが手にするソレこそ――【ソムリエナイフ】!


 キャップシールを内蔵されているナイフで切り、同じく搭載されているスクリューをコルク栓へねじ込む。

ナイフとは反対側の、段差のある長い金具を瓶口の縁へ引っ掛ける。

後は瓶口に引っ掛けた金具を支点にナイフ本体を上に持ち上げれば、梃子原理でコルクが持ち上るのだ。


 道具の性能、力の原理、そして人の腕力。

三つの力が一つになれば、何百万パワーである。これほどコルク抜栓に適した道具は無い。


しかし問題が一つ!


(他のオープナーに比べて、これは練習の必要がありますかねぇ……?)


 他の四つは直感で何とかなりそうだった。だがソムリエナイフは、多少の技術と各部の意味を理解する必要があった。

幸い使い方は目の前で何回か見ているので分かってはいる。それでも、実際自分が開けるとなると少し自信が無い。



 これを扱うには相応の練習が必要だと思った。ラフィさんや沙都子の厳しい指導の下、然る訓練を受けた後、所持すべき道具だと思った。



 他にも【電動式】や【エアー注入式】など、様々なオープナーがあった。

しかしそういったものはおしなべて値段が高い。今月はやや散財をし過ぎた寧子には高嶺の花である。それになんとなく、楽すぎる道具は負けた気がしてならない。よってこれらもすべて却下!


(方針は決まりましたです! 第一候補は【ウィング式】 値段が安ければ【セルフプリング式】にするです!)


 寧子は財布を持ち、ヘルメットを被った。

 そして愛車の真っ赤なベスパにまたがり、茜色の夕日へ向けて走り出す。


(待ってるです、コルク栓! 絶対にやっつけてやるです!)


 決してコルク栓は悪い奴じゃない。やっつける対象でもない。

 しかし闘志をメラメラ燃やしている今の寧子に何を語っても無駄であろう!

  

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