ようじょ、お酒にはまる ~ワインに出会って、色々な人と交流し、少しずつ成長してゆく物語~

シトラス=ライス

チャプター1:ようじょ、お酒というかワインにはまる

第1話ようじょ、大人の階段を昇るため、酒を買う


『年齢確認をお願いします』


「は、二十歳なのです!! 大学生です!!」



 レジの音声をかき消すように、彼女は店員へ学生証を突きつけた。



【英華大学文学部コミュニケーション学科 石黒 寧子】



 緊張気味な証明写真は間違いなく本人で、生年月日から計算しても今日付けで間違いなく二十歳の成人。全く嘘偽りがないにも関わらず、はたからみれば彼女の成りは、およそ二十歳とは思えなかった。



 ネコのように少し吊り上がった眼に、黒髪のツインテール。


ほぼふくらみのない胸がレジ台越しに僅かに見えるほど背は小さい。


せめて女子大生らしく、と青いジャケットを着てはいるが、これは実は子供服コーナーで購入したものだなんて恥ずかしくて誰にも言えず、彼女の秘密の一つになっている。



 どこからどう見ても「ようじょ」


しかしそれでも寧子は間違いなく20歳。成人なのである。



 店員も一瞬寧子の成りにいぶかしげな視線を送ったが、一切偽りのない学生証を確認して、淡々と彼女が持ってきた商品をレジ入力してゆく。



 彼女の後ろでは「マジかよ、アレで本当に20歳かよ」などのひそひそ声が聞こえてくる。


 寧子は寄せられる好奇な視線と、ひそひそ話を必死に耐え、スマホの電子マネー決済でさっさと会計を終える。そしてひったくるように買い物袋を手にとって、逃げるようにコンビニから夜の街へと飛び出していった。



 石黒 寧子 9月23日生まれのおとめ座。


身長148センチ。


体重、スリーサイズもろもろは親しい友人以外には非公開。


文脈から分かる通り、本人も気にしているつるペタ。




今日で晴れて成人であるが、しかしどこからどうみても「ようじょ」にしか見えない寧子。彼女は2本の350ml缶と、何故か手に取ってしまった”1本のワインボトル”が詰め込まれたエコバックを手にして愛車にまたがる。


 イタリア語で”スズメバチ”の意味を持つ、愛車の二輪車を駆り、短い脚で勢いよくキックスターターを踏み込んでエンジンを始動させた。



 国産二輪車と違い捻ったきりばねで戻らない右のアクセルを全開にして、アパートに続く県道と指定されている坂道を駆け上がる。



(わたしは今日で二十歳なのです! 大人の女性なのです! 誰がどう言おうとも法律が今日でわたしは成人で、お酒が買える歳だといっているのです!)



 大学生特有の二か月にも及ぶ長い夏休み。


その終盤に晴れて成人の誕生日を迎えた寧子は、大人の階段を上るべく酒を購入し住処のアパートへ舞い戻るのだった。

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