第216話
「ふーっ、ふーっ」
ウッドチェアに片足を乗せたまま、荒い息を繰り返す幼女に、誰も彼もが鳩が豆鉄砲を食った様な表情をしていた。王女の突然のヤン化に皆思考が追い付いていない様子だな。二回目くらいで止めておけば良かったのに……
「ま、マリー様。私にどの様な御用でしょうか?」
「ふーっ、ふーっ……え? あ、なんだっけ?」
暴発して忘れるんじゃない。
「ああ、そうだ……」
用事を思い出した王女は、腰からぶら下げた革製の袋に手を突っ込む。取り出したソレを見て、ゾワッと鳥肌が立った。
「グレイから聞いたわよ。コレが必要なんですってね」
確かにソレは必要だが、今ここで出さんでも……。チラリとルリさんに目をやれば、今度はソレに目を奪われていた。
「な、なにこれ……キレイ……」
「ええ、とっても素敵ね……」
何故におばさままで……? あ、そうか。コレを見た事があるのは、私と王女とリリーカさんだけだっけ。
王女が袋から取り出したモノ。それは、私の血を分けた我が分身、『ブラッディルビー』だった。
「か、カナさん。このキレイな宝石は何……?」
ルビーを食い入る様に見つめながら、ルリさんはそう言う。ってか、ルビーにしか目に入ってないなこりゃ。こうなるから人目に付けさせたく無かったんだが……
「コレを届ける為にいらしたのですか……?」
「そうよ。グレイが『大急ぎで』なんて言うんだもの」
三ヶ月後の任命式までに手元にあれば良かったんだけど……。オジサマ、おっちょこちょい。
「んで? これをどうするつもりなの?」
オジサマ、それも話ししてないんかい。
「『へミニス』様が
タドガーの名前を出すと、王女は露骨に嫌な表情を作った。
「カーンを十二位に。と薦めたのは『へミニス』様であるとか。その彼が、『レーヴェ』様や『パルセノス』様を抱き込んでまで求めるモノとは――」
「コレ……か」
「はい。根掘り葉掘り聞かれるよりは、渡してしまおうって考えなのです」
そう言うと、王女はフム。と考え込んだ。
「でもねぇ……アイツに弄られたコレを手元に置いておきたくないんだけど……」
何を仕掛けるか分からないし。と王女は言う。
「まあ、しょうがないか。コレは元々貰ったモノだし……」
強引に奪われたのであって、あげた覚えはないんですがね。
「分かったわ。コレは私から渡しておく事にする。それで良いのよね?」
「はい。ですが、スグにではなく、リリーカさんがカーンに打診し、それが戻って来るくらいの時間を開けてお渡し下さい」
そうしないと色々と辻褄が合わなくなる。
「あーあ、お気に入りだったのにな」
革袋に宝石を仕舞い込んだ王女はそう呟い
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