第164話
ゴキッと音がして肘に電気が走り、思わずその場にしゃがみ込む。くぉぉ……手首が、手首がぁぁっ。
「全く……何をなさっているのですかお姉様。こんな分かりやすいモノが隠し扉のスイッチな訳がありませんでしょう?」
テレビだとそうだったのよ。
「……と言いたい所ですが、半分当たりですわ」
「え……?」
見上げれば、白い本の背表紙の一部が僅かにズレていて、空洞の背表紙部分に何かが入っている。それは、棒状の金属の様だった。……鍵?
「男爵夫人。この鍵は何処の物かご存知ですか?」
「いいえ、この様な物。存じません」
この部屋を掃除している使用人さんも、見た事は無いと首を振る。
「じゃあ、何処の鍵なのでしょうか……」
リリーカさんは鍵を手に取って辺りを見渡し、それにつられて私も周囲に視線を巡らす。『南京錠の鍵』と良く似た形状であるこの鍵は、玄関や机の引き出し等各ご家庭でもそこかしこで使われている汎用品。しかしこれは、その汎用品の鍵よりもふた回り程大きく、その用途は限られる。これだけ大きいと鍵穴も大きくて見付け易い筈なのだが……
「これの鍵穴が見つかりませんわね。別な場所でしょうか……?」
「うーん、そうかも……ん?」
「どうかされました? お姉様」
「気の所為かな。絨毯の端が浮いている様な……」
「え?」
リリーカさんは側にしゃがみ込み、私と同じ方向をジッと見つめる。その場所とは、執務机に向かって左側の端。本棚が途切れ、壁が露出している部分。
「本当ですわ。僅かに浮いておりますわね」
座り込んでいて初めて分かる程の僅かなモノだけど、家具などに巻き込まれて捲り上がった訳ではなさそうだ。リリーカさんは僅かに浮き上がる絨毯の端を掴んで捲り上げ、私達の方を向いた。
「当たりですわ。お姉様」
リリーカさんは持っていた錠を鍵穴に差し込んで回すと、露出している壁の一部が外側へと動いてゆく。どうやら魔術的な何かで動いている様だ。そして完全に開ききると、下へと続く階段が私達の前に現れた。
「男爵夫人、この事は?」
「いいえ、全く存じません。まさかこんな場所に隠し階段が在ったなんて……」
使用人さんに視線を向けると、何も言わずに首を横に振った。そして、リリーカさんも同じく横に振る。……え?
「ダメですわよお姉様」
「え? まだ何も――」
「ダメですわよお姉様」
「いやだから、まだ――」
「ダメですわよお姉様」
怒涛の三連続攻撃に、私もタジタジになるしかなかった。
「中を確認しよう。って思っていらっしゃるでしょう?」
あんたエスパーか何か!?
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