第163話
男爵夫人に案内され、私とリリーカさんは殺人現場である男爵の執務室へとやって来た。
「こちらが、主人が使っていた執務室です」
案内された執務室は教室程の広さがあり、端に金色の刺繍が施された、真っ赤な絨毯が敷かれていた。際奥の窓際には執務机が置かれ、その手前には応接セットが置かれている。両サイドの壁はほぼ本棚になっていて、机から遠く離れた壁際に、私達が入って来たのとは別のドアが
「隣の部屋には、私が控えておりました」
「え!? そうなんですか?!」
白髪の使用人さんの言葉で、密室殺人の根幹が早くも崩れ去った瞬間である。
「じゃあもしかして、使用人さんが……?」
ジッと見つめる私に白髪の使用人さんは、ビクッとして一歩後退る。
「んめめ滅相も無いっ。
チッ、違ったか。
「使用人さんは、男爵が亡くなられていた時には隣の部屋に居たのですね?」
「はい。左様で御座います」
「では、何か物音など聞こえませんでしたか?」
男爵が何者かに殺されたのだとしたら、隣に居て気付かないって事は無い筈だ。
「……いいえ、全く」
「何の音も。ですか?」
「はい」
まさかこの人、寝てたんじゃないだろうな……。ともかく、現場の再確認だ。
「こちらで男爵は亡くなられていたのですね……」
そういえば、執務中とか言ってたっけ。
「男爵はどの様なお仕事をされていたのですか?」
「主人は小さな商会を営んでおりまして、その書類整理だと思います。今は片付けてしまいましたが、当時は書類が積んでありました」
「なるほど。本棚にあるのも、仕事関係の資料なのですね……ん?」
壁際に並ぶ本棚をグルリ。と見渡した私が、ソレを見逃す筈は無かった。茶系の背表紙が並ぶ中、ただの一冊だけが白い背表紙である事に。
「どうしてココだけ別な本が挟まれているのですか?」
「え……? さあ?
「お姉様、それは左右で別な種類の本になっているので、ただ区別する為に置かれているだけですわ」
「おーっほっほっほ。甘い、甘いですわリリーカさん。それはもうハチミツを塗りたくってペロペロしたいくらい甘いですわ」
「お姉様。仰っている事の意味が分かりませんわ」
スマートスピーカーばりの返答をするリリーカさんに、私はニヤリ。と口角を吊り上げた。
「白い背表紙の本の正体は、隠し扉のスイッチよっ!」
白い背表紙の本に手を添えて、グッと押し込むと、ゴキッ。という音がした。あ痛って?!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます