第143話

「貴族様って……え、ウソ。お人形さんみたいにこんなに可愛いのにっ?!」


 貴族に容姿は関係無いと思うな……。実際、一日十食食っている様な大食漢貴族ヤツも居るくらいだし。


「ところで、ルリさんはここで何をしていたの?」

「ん? ああ。お祭りは今日で最後だし、明日朝イチで出発するキャラバンの護衛依頼を受けに来てたのよ」

「護衛……?」

「そ。全ての商人が船を使っている訳じゃ無いからね。陸路で移動するキャラバンを魔獣や盗賊から守るの」


 冒険者として稼ぎ時なのだとルリさんは言う。


「カナさんは?」

「私は、あの獣の飼い主を探す依頼を出してて……」

「ああ、あのカワイイヤツね」


 そう。アンタがシレッと連れ去ろうとしていたヤツだよ。


「サーカスに売るって言ってたけど断られたんだ」

「誰も売るなんて言ってませんっ!」


 断わるどころか寧ろ、千手観音ばりの掌を出して売ってくれだとよ。


「サーカス団の人達は誰も飼って無いって。街角に張り紙でもして探そうかと思ってたら、冒険者ギルドここの存在に気付いたんです」

「良い判断ね。んーと……これね」


 ルリさんは、掲示板に張り出されていた私の依頼書を剥がして手に取る。よく見ると、紙の端の方が所々破けていて、幾人かがこの依頼書を見ていた様子だ。


「初めて依頼を出したから勝手が分からなくて……」

「そんな事無いわ。初めてにしては上出来よ。特徴が分かる似顔絵が有るし。うん、報奨金も悪くない。これなら、旅の途中で立ち寄った冒険者も滞在中に探してみようかって考えになると思う」


 依頼を受ける側のルリさんがそう言うのだから大丈夫なのだろう。


「お姉様、絵上手ですのね」

「あー、いや。受付嬢の人に描いて貰ったのよ」


 なにせ私が描くとミミズに手足が生えるもんで……


「アユザワ様」


 声を掛けられ振り向くとそこには、この絵を描いてくれた受付嬢が立っていた。でも、どうしたんだろう? なんか困っている様に見えるんだけど……


「丁度良かった。少し困った事態になりまして……」

「困った事態……?」

「はい。先程、獣の飼い主さんが現れたのですが……」


 それは嬉しい事じゃないか。何処が困った事態なんだ?


「六人目なのです」

「ろっ?!」

「ああ、そりゃあれだね。飼い主と偽ってアレを手に入れて、売り捌くつもりだわ」


 ルリさんの言葉に、鑑定で出た金額が頭を過る。


「あんな獣見た事無いから、結構高値で売れるんじゃない?」

「そうね、三億もするんだもの、誰でも欲しがるよね」

「「「さっ?!」」」


 リリーカさんとルリさんと受付嬢の声がハモった――

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