第142話

 リリーカさんの手に引かれ、人混み溢れる大通りを掻き分ける様にしながら一路冒険者ギルドへと進んでいた。


「ど、どうしてそんなに急がせるの?」

「最終日の今日は、何処の店も夕方までしか営業しておりませんの」


 夕方というのは何時までかは分からないが、空を見上げるとお日様はやや西に傾き掛けていた。


「今日は随分早くに店仕舞いするのね」

「ええ、夜には国王陛下とかん十二位の演説がありますので」


 なるほど。それを聞くために早仕舞いするのか。だけど、あれ……?


「リリーカさんは行かなくても良いの?」

「はい。わたくしはまだ未成年ですしそれに、お父様が出席しているので問題ありません」


 あ、だからお店にオジサマが居なかったのか。


「オジサマも大変ね」

「ええ。でも、わたくしが成人した暁には、全てをわたくしに任せ、お父様は何もしない腹積もりの様ですわ」


 オジサマ、あの渋い顔の下ではそんな事を考えていたのか……。リリーカさんも大変だな。




「あら? カナさんじゃない」


 冒険者ギルドに着くなり、見知った顔にバッタリと会った。その人物とは、『契約の石』の件で相談しに行った冒険者のルリさんだ。


「どうかした?」

「え、あ。いやぁ、シッカリと別れの挨拶をしたのに、また会っちゃったから。気不味いなぁって」


 私の言葉に、ルリさんは拳を唇に当ててクスリ。と笑った。


「確かにそうね。でも、そんなの気にしてたら出歩けないわよ」


 確かに。


「で、そちらのお嬢さんは? カナさんのお子さん?」


 アンタ。私がそんな歳に見えるのか?


「そういえば初めて会うんだっけ。こちらはリリーカさん。彼女は私の――」


 ふと。リリーカさんって私の何だろう? という考えが過ぎった。借金を肩代わりしてくれたから……ご主人様?


「恋人?」


 何でそうなる。


「妙な妄想しないで下さい。彼女は私の大親友です」


 タダの親友とは言わないのが私クオリティ。ご主人様なんて言おうものなら勘違いされまくるだろうし、コレが無難かな。リリーカさんは何故か寂しそうな顔になっているけど……


「初めましてリリーカちゃん。私はルリ=ブランシェ、こう見えても冒険者よ」

「お初にお目に掛かりますルリお姉様」


 リリーカさんはスカートを僅かに持ち上げてカーテシーを行う。


「へぇ、中々礼節がサマになっているわね。まるで貴族みたい」

「まるで。じゃなくて、まんま貴族様ですよ」

「え……?」

「はい。国王陛下よりかん七位のくらいを頂戴致しております」

「かんなない……? へっ? えっ、ええっ!」


 ルリさんが上げた声に、私達は周囲から熱い眼差しを注がれる事となった――

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